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ジャーロ編集部が送る おすすめミステリー

「ここがぼくのプッシュポイント!」

こんにちは。「ジャーロ」編集部の見習い編集者、黒猫のアランです。編集長の指示を受け、毎号の新連載小説でぼくが「ここだ!」と思う読みどころを押し売り的に紹介します。“押しのポイント”ですからね。いや、させてください! お願いします! ミステリー修行中の身ですが、肉球もつぶれろとばかりにプッシュプッシュでお薦めしまくります!

No.62表紙画像
Vol.62新連載作品2017年12月22日発売

  • イラスト・ひらいたかこ

    〈幻燈小劇場〉「おじさんのトランク」

    芦辺 拓

     あなたの親戚に「不思議なおじさん」はいませんか? 
     別に「おばさん」でもいいのですが、謎に満ちた不思議な存在という意味で記憶に残るのは、なぜかおじさんのほうが多いようです。
     自分の父親が家の外で何をして、どう働いているのか、子どもでもなんとなく理解しています。家にいるときのダラッと寝ている父親の姿は、多少の鬱陶しさと共によく覚えてもいます。
     でも、たまに親戚が一堂に会する場のなかに、普段何をやっているのかまるで分からない「おじさん」はいませんでしたか?(大人たちは当然知っていたのでしょうけど)
     ぼくの記憶の中にも、生活感がないというか日常が見えないというか、ふわっとした存在の「おじさん」がいました。そもそも、そのおじさんとどれくらいの血縁関係なのかさえ定かではない、とりあえず「おじざん」と呼ぶしかない存在。
     そんな不思議なおじさんは案外子どもに優しかったりして、大人に混じって退屈している子どもたちにいろいろな街を探索したときの話をしてくれたり、そのとき持ち帰った戦利品(ただの枝だったり、何かの紐の端っこだったり)を手に入れるまでの冒険譚を聞かせてくれたり。そんな話を、ぼくたち子どもは目を輝かせて聞いていました。でも、おじさんが本当はどこで何をしているのか、やっぱり知らない。

     ――あのおじさんは、いったい何だったのだろう?
     芦辺拓さんが62号より連載を始めた〈幻燈小劇場〉は、そんな不思議なおじさんの、謎の人生を辿っていく物語です。
     ある劇場に長年出演している老俳優の「私」に、ある日プロデューサーが話を持ちかけます。「企画・演出・主演……何もかも自分の思い通りにした舞台をやってみないか?」と。
     ただし、そのための条件が一つあるのです。老俳優はかつてプロデューサーに「おじさんに聞いた話」をしていたのですが、プロデューサーは「その話をふくらませれば面白い芝居になる」と感じていたのです。しかし老俳優は、実際のところ「おじさん」のことをよく知らない。そこでプロデューサーはさらに畳みかけます。「それなら、あんた自身が調べて歩くんだな」。
     ということで、老俳優は自分で思い通りに作ることができる主演舞台のため、「おじさん」の思い出と足跡を辿り始めます。まず最初の手がかりは、使い込まれて傷だらけの革張りのトランク。そこから「おじさんの人生を辿る旅」が始まります!

     芦辺さんはこれまでも光文社より、幻想怪奇の魅力を(おう)(いつ)させた本を刊行されています。
     古書(しゅう)(しゅう)()かれた人間が目眩(めくるめ)く悪夢へと引きずり込まれ、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験をしていく『奇譚を売る店』。
     支配者に(いん)(ぺい)された楽譜、死者が道連れにした楽譜、呪われた楽曲の楽譜……依頼があれば古今東西の散逸した譜面を、どんなものでも必ず見つけ出す楽譜探索人を描いた『楽譜と旅する男』。
      〈幻燈小劇場〉はそれら「幻想奇譚」シリーズに連なる連載です。
      芦辺さんと一緒に、どうぞ「おじさん」の過去を遡る旅に出かけてください。

  • イラスト・かわいち ともこ

    「そのナイフでは殺せない」

    森川智喜

     昔から人間たちは「強大な力を秘めた道具」にとても魅力を感じてきたようです。彼らが生み出した数々の物語に、その道具への憧れが込められています。
     古くはランプを(こす)った者の願いを叶えてくれる「アラジンと魔法のランプ」があり、20世紀初頭にも三つの願いを叶えてくれる「猿の手」をジェイコブズが書き、少し前では名前を書いた人間を死なせることができるという死神のノート「デスノート」を描いた漫画『DEATH NOTE』とか。
     しかし一方で、その道具を使いこなすことの難しさも描いています。「猿の手」では願いが叶うために高い代償を支払わなくてはならず、「アラジンの魔法のランプ」と『DEATH NOTE』では、道具の使用において細かなルール・制約があります。
     ディズニー版『アラジン』では、ランプの精のジーニーにより、「殺生」「恋愛成就」「死者を生き返らせる」「叶える願いの数を増やす」「願いを取り消す」の五つの願いは叶えることができないとされます(あー、面倒くさい)。
    『DEATH NOTE』にいたっては、それこそ数え切れないほどのルールが設定されています(後からどんどん追加されたし)。
     おそらく、どうやったら道具(もしくは道具の背後にいる、悪魔など力を司るもの)の裏をかけるか、人間が試行錯誤を繰り返してきた、ある種の論理ゲームの結果、ルールもどんどん強化されていったのでしょうね。
     確かに三つの願いの最後で「叶えられる願いを百個に増やして」などという願いが叶ってしまったら、お話になりません。
     しかし人間自体に能力が無い以上、裏をかこうとするのも致し方ないことかもしれません。

     62号より「そのナイフでは殺せない」の連載が始まった森川智喜さん。これまでも「なんでも教えてくれる不思議な鏡」や、18世紀末の“侍の国”に現れた光る円盤から出てきた不思議な道具(いわば現代の科学捜査の道具)などを小説世界に巧みに取り入れ、ルール・約束事をきちんと確立した特殊世界設定のミステリーを得意とされてきました。
     そして今回登場するのは「ナイフ」。主人公の大学生・(しち)(さわ)は、海外旅行で行ったフィレンツェ郊外の蚤の市で、あるナイフを手に入れます。大きな刃で、柄にドクロと心臓の彫刻が施されたそのナイフには、実はとてつもない力が宿っていたのです。
     その力の源である宿り主と会い、ナイフの能力を知っていくことで、七沢は現実世界にいながらにして異世界の力を手に入れることになります。
     さて、そのナイフの宿り主とは? ナイフの能力とは? そしてその力の行使に設定されたルールとは?
     七沢が一歩踏み出したことで、読者の皆さんの前に魅力的な森川ワールドが展開されます!

     人間とは違い、ぼくたち猫(というか先輩猫たち)には、もともと大きな力が秘められています(そう教わりました)。
    “A cat has nine lives. ”(猫に九生あり/猫は九つの命を持つ)と言われるように、ぼくたちの命は九つもあって、死んでも何度でも生き返るのです!(ちょっと怖いけど)
     かつて中世ヨーロッパでは、先輩の猫たちは魔女の使い魔であるとみなされていましたしね。能力を秘めた道具がなくても問題ないのです。
     でも……これは内緒なのですが……「猫は九つの命を持つ」と言われる本当の理由は、ぼくたち猫に「家出」の習性があり、何日も戻ってこずもう死んでしまったのだろうと人間たちが思ったころにひょっこり帰ってくるので、「生き返った猫が戻ってきた」と思われたことにあるとか……。
     そういえば、ぼくも無性に家出をしたくなるときがあります。特に春が訪れると……。

  • イラスト・和田聡美

    「殺人犯 対 殺人鬼」

    早坂 吝

     お隣の編集部のおじさん編集者が、独り言のように言いました。「2020年が楽しみだなぁ」。
     その声が耳に入ってしまったぼくが「東京五輪ですね」とお愛想で話しかけてしまうと、
    「なに言ってんの? お前分かってないね。ハリウッド版の『ゴジラ対キングコング』が2020年に公開されるの! ゴジラ史上、俺のもっとも好きな日本オリジナル『キングコング対ゴジラ』がリメイクされるの! あっ、オリジナルのタイトルでは「ゴジラ」が後に入るんだからね。なんと1962年以来の2大怪獣の対決だよ、この重大性が分かる?」
     しまった、面倒くさいツボに嵌まってしまったみたい。「いえ、まったく分かりません。だいたい1962年は先輩も生まれてなかったのでは?」とは口にできないので、「はあ……なるほど」と引き気味に答えていると、おじさん編集者の語りはまだまだ続いて……。
    「やっぱりゴジラシリーズは“対決”にこそ妙味があるのよ。対アンギラス、対モスラの初期作品がそうだし、平成ゴジラシリーズは別名“vsシリーズ”と呼ばれているし、ミレニアムシリーズだって事実上“対決”ものだと思うのよ、俺は」
     いや、まったく付いていけません、先輩。
    「“対決=vs”は本来、絶対的な善=正義の味方と絶対的な悪との闘いが王道だと思うんだ。東宝特撮では『サンダ対ガイラ』がそれに近いかな。アランはどう思う」
    「はあ……そうなんですか……(知らないって)」
    「だがな、正義もなにもない、人間の敵同士、悪同士の“対決”も、これがまた結構魅力的だと思わない?」
    「はあ……ですよね……(だから知らないって)」
    「ゴジラからは外れるけど『フレディvsジェイソン』なんてのもそうじゃない。あと、『エイリアンvsプレデター』もあったな。そうそう、近いところでは『貞子vs伽椰子』は驚きの設定だよな。まてよ、『バットマンvsスーパーマン』はどう捉えればいいんだ?……そういえば……」
     ますます訳の分からない独り言を続ける先輩のそばを、ぼくはそっと離れたのでした。

     しかし、今号から連載が始まる早坂吝さんの「殺人犯 対 殺人鬼」を読んで、先輩の言っていた「悪同士の“対決”も魅力的」という言葉の意味が分かってきました。
     外から閉ざされた場所で、ある人物が復讐のために殺人を犯そうとしていた。人殺しが悪いことだとは分かっている。しかし、この相手は絶対に許せないことをした。自らの手で復讐を遂げずにはいられない。そしてその人物が殺すべき相手の元に辿り着いたとき、その相手はすでに殺されていた。それも残虐過ぎるほどの残虐さで! もしかすると、ここには猟奇的な殺人鬼が紛れ込んでいるのか? そして自分の先を越して殺人を成し遂げてしまったのか?
     殺しを目的とした二人の人間が、偶然にも同じ閉鎖空間で、同じ相手を殺そうと思ったら……という、これはミステリーファンにはたまらない設定ではありませんか。
     殺人犯と殺人鬼の“ライバル同士”が、相手より先に殺人を遂行しようとする、究極の対決。結末がどうなるのか、連載を追いかけてください!

No.61表紙画像
Vol.61新連載作品2017年9月22日発売

  • イラスト・佐久間真人

    〈和菓子のアン〉「甘い世界(前編)」

    坂木 司

     先日、「ジャーロ」編集部と同じフロアにいる先輩女性編集者がデパ地下について熱く語っていました――。
    「デパ地下っていうのは、そこは行けば必ず何かが見つかる魔法の場所なの。エスカレーターを降りる途中から目に飛び込んでくる溢れんばかりの色彩と、食欲を刺激してやまない魅惑の香り! 試食もできるし、自分へのご褒美のスイーツ探しも楽しい。仕事帰りに歩き回るだけで幸せになれて、もはや行くこと自体が目的となる街のテーマパークね!」
     なんでそれほどのめり込めるのか、僕には理解しがたいです。いつもより豪華なキャットフードが出てきたときみたいな幸せを感じるのかな。だとしたら、なんとなく分かるけど……。
     でも先輩は、そんなデパ地下においても和菓子屋さんが集まるエリアはどこか雰囲気が違うとも言っています。老舗の路面店よりは親しみやすく気軽に購入できるけど、どこか凛とした清々しい空気が漂っている。楽しいだけでなく、和菓子を買うだけで、なんだかちゃんとした自分になれるのだとか。
    「ちゃんとした自分になれる」――それが「和」のもつ佇まいなのでしょうか。
     そんなデパ地下の和菓子店「みつ屋」が舞台となる人気シリーズ「和菓子のアン」。『和菓子のアン』『アンと青春』に続いて、ついに61号より第3弾の連載が始まりました! その主要登場人物を見るだけで、ただものではない面白さが感じられます。
     高校を卒業して、進学も就職も決められないまま「みつ屋」でアルバイトをすることにした主人公の梅本杏子うめもときょうこ、通称”アンちゃん”。食べることが大好きな彼女はアルバイトし始めのころ身長150センチ、体重57キロと、ちょっとぽっちゃりめ。その体型のコンプレックスから男性と話すのが苦手だったりします。「きもちいい!」とみんなにほっぺたをつままれながら頑張る仕事を通じて、和菓子の奥深さを学んでいきます。
     「みつ屋」の店長・椿つばきはるかは、仕事のできる美女。客が選んだ和菓子から、その人の悩みや購入目的を推理する知識と頭脳をもっています。でも、その中身は株やギャンブルが趣味で、私服のセンスは最悪、ビールと煙草が好きな「おっさん」なのでした。
     立花早太郎たちばなそうたろうは、和菓子職人を目指す「みつ屋」社員。高身長、イケメンで、豊富な和菓子の知識を駆使した丁寧な接客。彼から購入したがる客も多いのですが、その中身はやはり別人のようで、かわいい物や恋バナにキャーキャー盛り上がってしまう「超乙女系男子」なのです。
     そしてアンちゃんと同じアルバイトの桜井さん。彼女は普通の女子大生かと思いきや、元ヤンキー。無茶な要求をする客に凄みをきかせた応対をするなど、ときどきヤンキー時代の地が出てしまいます。
     というように、風変わりな人ばかりが集まる「みつ屋」で働くアンちゃんも、今回ついに二十歳を迎えます。大人になったアンちゃんは和菓子にまつわるどんな事件に巻き込まれるのか。もちろん、美味しい和菓子の蘊蓄うんちくもたっぷり。甘党の方はデパ地下に行って和菓子を買って帰りたくなること間違いなしです!

  • イラスト・佐久間真人

    〈銀幕のメッセージ〉
    「帝国のゴジラ」

    鯨統一郎

     脳を働かせたいと思ったとき、何を飲みますか? やっぱりカフェインの入ったコーヒーやお茶で、という人が多いでしょうか。水を飲んで体をきれいにしてこそ脳は働くのよ、という人もいるようです。なかにはカルピスが記憶力・集中力にいいという説もあるようで、乳酸菌飲料に入っているペプチドが効くとか……(真偽は不明)。
     では、お酒を飲むのはどうでしょう? アルコールは認知能力の低下を防ぐという研究報告もありますが……って、編集長、酒のプラス面の話になると急に前のめりにならないでくれませんか(顔が近いって)。じゃあ逆に、毎日お酒を飲むと脳の萎縮が早く進むという話もありますよ……あー、両耳塞いで聞こえない聞こえないしてるし。
     飲んべえの編集長は放っておいて、61号から連載がスタートした、鯨統一郎さんの人気キャラクター「桜川東子さくらがわはるこ」が登場する〈銀幕のメッセージ〉。今回で第7弾となる人気シリーズです。
     マスターの島が営むバー〈森へ抜ける道〉に今宵も集まるのは、常連客の山内と工藤(山内のヤ、工藤のクド、島のシと3人の名前の頭文字をとってヤクドシトリオと呼ばれてます)。元は客だったのがバーでアルバイトをすることになったOLの板東ばんどういるか。そして、やはり常連客の桜川東子。
     東子はメルヘンを専攻する美貌の大学院生で、とてつもない推理力の持ち主。さらには酒にめっぽう強く、飲めば飲むほど彼女の頭脳は冴え渡ります。
     元刑事でいまは私立探偵をやっている工藤がいつもバーに未解決事件を持ち込み、みんなで「真相」へ辿り着くべく議論するのですが、日本酒やウイスキー、ワインやビールなどあらゆる酒を飲みながら、最後にすべての謎を解き明かすのが桜川東子の頭脳なのです。東子に限っては、酒は脳を活性化させているようですね。
     そして童話、民話、ギリシャ神話、歌舞伎、オペラ、宝塚といったテーマが、シリーズごとに謎に絡んでくるという、もうひとつの楽しみもあります。今回は〈銀幕のメッセージ〉のタイトルの通り、映画の蘊蓄と事件が絡みますので、お酒を飲みながら映画の話をするのがお好きな方にはぴったりのシリーズです。
     さて、第1話「帝国のゴジラ」では、派閥抗争が繰り広げられる会社で社長が殺害された事件が持ち込まれます。推理のお供の酒はテキーラ。「スター・ウォーズ」や「ゴジラ」などの映画話を絡ませて謎解きは進みますが、今回新たなキャラクターも登場します。千木良悟ちぎらさとると名乗る男性客は、実際の事件の真相を推理して外れたことがないと豪語します。はたして、東子と千木良の推理合戦の結末は!? ぜひグラスを片手にお読みください。
     あれっ、編集長はどこにいったの? 今日はプレミアムフライデーだから、もう飲みにいった!? まったく、都合のいいことだけはちゃんと取り入れるんだから……。まあ、いいか。僕も編集部でちょっと一杯やっちゃおうっと。僕の好物の「鶏ささみの茹で汁」、これがたまらなく旨いんだなあ。

No.60表紙画像
Vol.60新連載作品2017年6月13日発売

  • イラスト・田尻真弓

    〈女神の苦笑〉「虹」

    宮部みゆき

     人間界には運命を司る女神がいます。ギリシア神話なら三人の女神たちですね。この三女神は、あなたたち一人一人に「運命の糸」を割り当て、紡ぎ、そして最後に断ち切るそうです(断ち切る……怖っ! 女神三人の打ち合わせはきっと「この人間、どーしちゃう?」などと、けたたましいものでしょうね……)。この「運命の糸」により劇的に変わってしまった人生を、人は偶然に翻弄されたと感じ「あー、運命の女神よ、あなたはなぜ無情にもこんな意地悪をなさるのか」と恨んだりします。
     まあ大抵の恨み言は彼女たちも「で?」と鼻で笑うのでしょうけど、ときに糸がこんがらがったのか、想定を上回ってあまりにも偶然が重なってしまい、女神たちが「ちょっと待ってよ、それ私たち知らないし。聞いてないし。私たちのせいじゃないからね」と慌てるような事態が起きたりします。そう、起きるのです。
     60号より始まった宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズは、さすがの運命の女神たちも苦笑するしかないような、あまりもの偶然の積み重なり、連鎖、連結に巻き込まれた人たちの物語です。
     第一話「虹」は、夫とその家族に酷い仕打ちを受け続けてきた女性が息子とともに家を逃げ出し、新たな人生を始めようと母子シェルターの寮に入ります。その寮の共同洗濯機で息子の大切な運動着を洗うたびに、別の入寮者の洗濯物によってなぜか必ず色移りしてしまいます。避けようとしても、必ずそうなってしまうのです。
     でも、この色移りが起きるたびに、母子の人生の転機となるようなできごとが次々と起きてゆき……。はたしてこれはただの偶然!? その先にはどんな未来が待ち受けている!?
     女神さま、責任は問わないから分かっているなら早く先を教えて、と問いたくなるような展開。ページをめくる手が、猫なら肉球が止まらない、まさにページターナーの一編です!

  • イラスト・景山 徹

    「屍たちの昏い宴」

    笠井 潔

     矢吹駆(ヤブキ・カケル)。連続殺人事件の謎を見事に解きながらも、普通に考える「名探偵」のイメージがこれほど当てはまらない主人公はいないかもしれません。
     その容姿は、肩まで伸びるウエーブのかかった黒髪、切れ長の大きな目、整った鼻筋、少し厚めの唇で「ツタンカーメンを思わせる東洋の貴公子のような」と形容されます。ちょっと濃いめのイケメンでしょうか。もっとも本人はそんなこと微塵も考えていないようですが。
     問題はその推理方法。矢吹駆は「現象学的推理」という方法を用います。たとえば連続殺人が起こったとして、駆は事件を解決しようとはせず「一連の現象」として観察し捉えようとします(もう、この時点でよく分からなくなってきますが)。そして事件が終了した時点で「本質的直観」に基づいて真相を解き明かしてしまうのです(さらに分からなくなってしまいます!)。
     ひとつの出来事(たとえば殺人)があれば、それについての論理的に妥当といえる結論は無数にある。その無数の結論のなかから「唯一の真理」を導くのが「本質的直観」である(by駆、まとめbyアラン)――いやもう、すごい! かっこいい!(ミステリー修行中の身ゆえ、こんな反応しかできない自分が情けないっス! 編集長、すみません)
     そしてパリなどヨーロッパを中心とした舞台で、駆を事件へと誘うのが、とても行動的な女性ナディア・モガール。父親はパリ司法警察の警視ですから、かなり無茶なこともやっちゃいます。
     もう一人の重要人物が、様々な場所で起きる事件の裏に常に存在し、闇から犯罪者を操る黒幕ニコライ・イリイチ。あらゆる手段を用い、テロリズムで世界を破滅に追い込もうとする駆の宿敵です。(暗がりから狙うところだけは、なんとなく親近感を覚えたりします)
     三者の関係性だけでいえば、駆がホームズだとすると、ナディアがワトソン、イリイチがモリアーティ教授といったところでしょうか。はい、これは勉強しました。
     この三人を軸に書かれてきた「矢吹駆シリーズ」は、『バイバイ、エンジェル』を第一作として、番外編的な作品も含めると十作を越えるシリーズとなっていますが(単行本未刊行のものも含む)、今回の『屍たちの昏い夜』でついにシリーズ最終作となります!
     どのような殺人事件が待ち受けているのか。駆とイリイチの対決の行方は? ナディアとの関係は? シリーズを追いかけてきた方はもちろん、この作品で初めて読む方も、巻き起こる事件を楽しめること間違いなしです。
     ちなみにぼくは魚がたくさんがあっても、いちばん美味しい一匹を本質的直観(におい)で選べますよ!

  • イラスト・チカツタケオ

    〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉
    「言わなくても分かっている」

    前川 裕

    『クリーピー』(2012年2月刊)で第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビューした前川裕さん。同作品はクライムサスペンスの傑作です。東洛大学で犯罪心理学を教える大学教授の高倉は、友人の警視庁捜査一課の警部・野上の依頼で、8年前の日野市一家三人行方不明事件の捜査に協力していく。やがて高倉は得体の知れない隣人など事件の背後にある闇に気がつき、そのなかへと踏み込んでいくが……というストーリー。
     タイトルの「クリーピー」は「(恐怖のために)ぞっと身の毛がよだつような;気味の悪い」という意味の英語です。初めて知りました。読み進めていくうちに人間の心の暗部に引き込まれていくようで、まさにぞっと身の毛がよだつデビュー作です(ちなみにぼくの場合、ぞっとすると背中の毛が逆立ちます)。
     さらに『クリーピー』は黒沢清監督により映画化(2016年6月公開)され、「2016年 第90回キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画部門8位にランクインしました(ちなみにランキング1位は『この世界の片隅に』、2位が『シン・ゴジラ』と邦画のあたり年でしたねえ)。また、続編ともいえる長編『クリーピー・スクリーチ』も刊行され、「クリーピー」ワールドはさらなる広がりを見せています。
     そして「クリーピー」ワールドの次なる一手は、60号より連載がスタートした「犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル」シリーズ。今度は高倉を主人公とした連作短編です。
     過去のあらゆる犯罪(特に猟奇的殺人事件)に精通し、同時に犯人の心の襞に分け入ることもできる高倉。その能力をフルに活用し、ときに事件を未然に防ぎ、ときに犯人を罠にかけていきます。
     ちなみに映画版で高倉役を務めたのは西島秀俊さん。そのため、ぼくは小説でも高倉は西島さんとしか思えなくなってしまいました。この際ですから、皆さんも西島さんをイメージしてかっこいい高倉を楽しんでください。さらにちなみに、映画版の高倉の妻・康子役は竹内結子さんでした。イケメンと美女。だめだ、もう康子も竹内さんとしか思えない……。

No.59表紙画像
Vol.59新連載作品2017年3月31日発売

  • イラスト・おとないちあき

    〈エミールと探偵たち白書〉
    「アリバイのワイン」

    西澤保彦

     我が編集部のまわりの女性たち、「疲れた時に甘いものを食べると頭が働く」とかよく言っているのですが、本当でしょうか? 彼女たちは毎日のように「やばーい、脳みそにちょっと糖分入れなきゃ」とチョコレートの箱を開けるのですが……。
     雑居ビルの四階にひっそりと佇む〈ブック・ステアリング〉は、珍しくて懐かしい書籍の山が内装を埋め尽くす一大ブック・ギャラリーでもあります。「ぼく」こと柚木崎渓(ゆきさきけい)は、このカフェの看板メニューのチョコレートドーナッツをこよなく愛し足繁く通う、迫扇さこおおぎ学園高等部の学生。同級生の本好き美少女、エミールこと日柳永美ひさなぎえみもこの店の常連で、いつも一心不乱に本を読み耽っています。
     あるとき店長の梶本が「ちょっとおもしろいことがあってね」と語り始めた事件。それは歴代の夫三人とその愛人が連続して殺害されている女に完璧と思えるアリバイがあり、そのアリバイを梶本が証明しているというものでした。
     かつて梶本は約十二年間にわたって、ほぼ毎日〈ユモレスク〉という店のモーニングに通っていましたが、事件の被疑者・仲田有江も歴代の夫と愛人が殺された日の朝に〈ユモレスク〉でワインを飲んでおり、そのうちの二回は梶本が目撃者になっているというのです! 読書に埋没していたはずのエミールも、どうやら店長の話に興味をもったようで……。
     長身で大食い、エキゾチックな顔立ちエミールと、華奢で控え目男子のユキサキ。店長の美味しい料理を食べながら二人が巡らす推理とは!?
     チョコの箱を開けた編集部の女性たち、観察しているといつの間にか箱は空っぽに。それって「ちょっと」なの?……って、すみません、鼻にチョコを押しつけないでくれますか! ぼく、チョコは食べませんから!

  • イラスト・友風子

    〈巫女の推理に御利益あり〉
    「境内ではお静かに」

    天袮 涼

     巫女と聞いただけで、我が編集長はいつになく落ち着かなくなります。なぜでしょう……。
     天袮涼さんが描く巫女探偵・久遠雫<くおんしずくは超絶美人、白衣に緋袴(巫女ですから当然ですが)、腰まである黒髪を一本に束ね、背筋を真っ直ぐ伸ばした立ち居は凜々しく、参拝者の前では微笑みを絶やしません。そんな雫の表情は参拝者がいなくなると一変、双眸は氷塊のようになり、誰が呼んだかあだ名は「氷の巫女」。
     編集長、この目が怖くて落ち着かないんですか?
     雫がお務めするのは横浜で源義経を祀る源神社。そしてそこに住み込みで働くことになったのが坂本壮馬さかもとそうま。実は壮馬の兄・栄達えいたつは源神社の一人娘の婿となり、神職に就いていたのです。大学をやめてふらふらしていた壮馬を栄達が招いたというわけ。壮馬の教育係は、十七歳と年下ながら神社では先輩の雫。彼女の氷の視線に睨まれながら日々奮闘する壮馬でしたが……。
     あるとき、源神社が管轄する阿波野神社で心霊現象が起きているとネット上で話題となり、近隣住民から夜中に若者が集まって迷惑しているとクレームが入ります。雫と壮馬が心霊現象を解明する役目を担いますが、雫の鋭い視線は心霊現象の奥に別の問題が潜んでいることに気づき……。
     クールビューティにして冷徹な推理力の持ち主・雫と、なにをやってもうまくいかない男・壮馬のコンビが、神社に巻き起こる謎を解いていくシリーズ。神社の蘊蓄もたっぷり詰まっています!
     ちなみに神社というと「お稲荷様=狐=イヌ科」を思い浮かべる人が多いのでしょうね。でも、猫を祀った神社も全国には結構あるんですよ。たとえば東京では浅草の今戸神社が有名です。招き猫発祥の地といわれていますし、ぼくの白毛の仲間も住んでいて、この白猫を見かけたら幸運が訪れるとか。そうそう最近ではなぜか縁結びに神様にもなってるようで。
     それにしても編集長、なんで巫女と聞くとそわそわするんですか?

  • イラスト・宮崎ひかり

    「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」

    青柳碧人

     臓器移植をした人の嗜好や性格が以前とは変わってしまう「記憶転移」という話があります。もちろん科学的にはあくまで未解明の現象ですが、小説や映画、マンガなどでこのテーマは繰り返し扱われてきました。脳ではなく、臓器に記憶が宿る……どこまでも不思議な話です。
     さらに話を進めて、もし物に記憶が残るとしたら……。
     「私」こと、篠垣早紀しのがきさきは、三年間付き合った彼氏に突然別れを告げられます。降りたこともない駅で降り、路地裏の飲み屋街の小さな店をはしごし泥酔する早紀。タクシーを拾おうとしてふと目にとまったバー《オン・ザ・キャメル》に、つい入ってしまいます(編集長もよく「もう帰る」と言いつつ居酒屋に引っかかってますねえ)。
     そのバーで出会ったホストのような格好の男は、早紀のスマホを借り受けると店内のラクダの置物にまたがり眠ってしまいます(まさにオン・ザ・キャメル)。そして三十分後に目覚めた男は、その日、早紀が行った飲み屋、その店のメニューから他の客の会話まですべて正確に言い当てるのです!
     「俺は今、君のスマホになっていたんだ」。夢の中で早紀のスマホになった男は、彼氏からの別れの言葉を聞き、はしご酒のすべてをダイジェスト版で見てきたと語ります。
     「どういうわけか、俺にはそんな変な力が備わってしまった。どんな物でもいいってわけじゃないんだ。人に大事にされている物、近い過去、人に触れられていた物でなければならない。夢の中で、ただ無抵抗な物になり、映像を見せられる」
     その男との出会いが、早紀にとって新しい扉を開くことに。なぜなら早紀自身にもかつて同じような体験をした記憶があったから……。
     青柳碧人さんの「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」は、こんな大胆な設定のうえに謎を提示してくる長編ミステリーです。そもそも自分の“記憶”は本当にあったことなのか、100パーセントの自信をもっていえる人はいないは。そんな心の隙に、するりと入り込んでくる小説なのです。一度入ってきたら、青柳ワールドはどこまでも深く潜り込んできますので、お気をつけください。
     そういえばぼくは、ときどき編集長の顔を忘れてしまうのですが……。ま、いっか。別にあの人は餌をくれるわけじゃないしね。

No.58表紙画像
Vol.58新連載作品2016年11月25日発売

  • イラスト・平澤貴也

    〈隠蔽人類〉
    「隠蔽人類の発見と殺人」

    鳥飼否宇

     2013年11月、南アフリカ共和国の洞窟で骨が発見され、世界中の研究者達を驚かせた新種のヒト属「ホモ・ナレディ」。少なくとも15体分になるといわれる骨は集団埋葬された可能性があり、脳が現代のヒトの三分の一のサイズしかないのに、死を理解する文化を持ち合わせていたのではと議論となっているそうです……というのは実話です。骨の年代がまだ不明で人類の系統樹のどこに入るかはまだ分からず、未だに予断を許さない状況のようですね。
     鳥飼否宇さんが58号より連載を始めた「隠蔽人類」シリーズも、実は似たような状況が展開されています。と言っても人類史のミッシングリンクとなる骨が発見されたのではなく、なんと現代に生き延びている新種の人類が発見されたことから物語は始まるのです!
     カヌーでアマゾン川の全支流を単身で漕破するという冒険を敢行中に、ペルーの川で濁流に呑まれて命を落としたアメリカの冒険家。彼はタブレット端末に詳細な日記と写真を残していたましたが、彼の妻がそこに驚くべき記述を見つけるのです。アマゾン川のとある支流のさらに枝分かれ、小さな流れの先に総勢五十人ほどでひっそりと暮らす未接触民族の集落があり、冒険家はその「キズキ族」を「これまでに出会ったどんな民族とも違う」特徴を持っていると記していました。そこで日本の人類学者など五人の調査団が、はるかキズキ族の集落を求めアマゾン川を遡っていきます。目的はキズキ族のDNAサンプルを入手し、新種の人類であることを証明すること。しかし、それぞれの野望が渦巻く調査団はお互いに牽制し合い、そしてついにたどり着いた集落で調査団の一人が何者かに殺されるという事件が起きて……。
     特殊設定や人間以外の生物が関係してくる世界でのミステリーは、鳥飼さんのお得意とするところ。今回も二転三転、毎回どんでん返しが待ち受けていますよ。
     それにしても人間は自分のルーツを辿ることがお好きなようで、ミッシングリンクの発見にはいつも目の色を変えますねえ。
     ぼくたち猫科は遙か太古の昔の「プセウダエルルス」というご先祖様以来、形態はほとんど変わっていませんので落ち着いたものです。あっ、「目の色」は意思に関係なく明かり次第で変わってしまいますけどね。

  • イラスト・知子

    〈飛んで火に入る三人〉
    「ロウソク邸とむらさきの火」

    森 晶麿

     熊野那智大社や鞍馬の火祭、京都大文字五山送り火や御火焚(おひたき)、北口本宮冨士浅間神社と諏訪神社にも吉田の火祭がありますし、さらには九州地方の鬼火など、日本全国で季節を問わず、いわゆる「火祭り」が行われています。それだけ神霊の送迎や清め、魔よけなど、人間は燃える炎の力を信じているということですね。
     58号より森晶麿さんが連載をスタートした「飛んで火に入る三人」も、まさに燃える炎のパワーをめぐるミステリーです。
     露木洋伍(つゆきようご)、職業は「予現者」(「予言者」ではなく「予現者」)。見た目は美青年ながら言動は軽薄。彼は燃え上がる炎のイメージを「観る」ことで、火災が起きる現場を言い当てることができます。
     凪田緒ノ帆(なぎたおのほ)、職業は現象学者。かつて学会で外出していた日に自宅の火災によって夫を失ってしまいました。
     海老野ホムラ(えびのほむら)、職業は消防士。かつてアフガニスタンを旅行中に正体不明のテロリスト集団に襲われ、恋人のメグミを拉致されます。身体を拘束されたホムラは柵で囲われ火を放たれましたが、火がロープを焼き切り九死に一生を得るという、悲惨な経験をしました。
     この三人を結びつけるのは「炎」。露木は、最近起こった火災の被害者がいずれもスマホの画面を同じ女性の画像にしていることに気づきます。その画像はメグミによく似た女性で、さらに調べると、画像から〈貴婦jin俱楽部〉という出会い系サイトにたどり着くのです。はたしてメグミは生存しているのか? 炎に導かれるように、三人は真相を求めて旅に出ますが……。
     燃え上がる炎には人を落ち着かせる力もありますが(暖炉の前など、ぼくも大好き)、ときに人を狂わせる力もあるようですね。本シリーズは炎のよって運命が変わってしまった人たちを巡るミステリーです。
     ちなみにぼくの一族にも「猫股(又)の火」なる火の玉と化す怪猫伝説が残っていますが、そうなるには尻尾が二股に分かれるほど長生きしないとね。

  • イラスト・YOUCHAN

    〈珈琲城のキネマと事件〉
    「狼が殺した」

    井上雅彦

     シアトル・スタイルのカフェでそれなりに美味しいコーヒーを飲むのは気楽でいい。スマホをいじるのにはちょうどいいし。でも黄金期のミステリーを再読するなら、シアトル系はちょっとね。やはり古き良き昭和の薫り漂う喫茶店に文庫本を持って行きたいものだ……とは編集長の言。編集長、その後もなにやら遠い目をして、昔通ったお茶の水のジャズ喫茶の女子大生店員がかわいくて、いつもカウンターに座って彼女のことを……なんてぶつぶつ言ってたが、中身がよく分からない。ちょうど日が差して眠気を誘う暖かさだったし。
     でも井上雅彦さんの「珈琲城とキネマと事件」を読んで、編集長の昔話……いやミステリーの読み方の指導がちょっと分かった気がしました。
     ホテルの一室で、男性の変死体が発見されます。喉は鋭い刃物で執拗に剔ぐられたかのようで、頭蓋骨や頸部など複数の骨折も見られる。犯人が逃走できたのは床から8メートルの高さにある天窓のみ。さらに外には、雪のうえにイヌ科とおぼしき大型動物の足跡が……。被害者はかつて、絶滅したはずのエゾオオカミの生存を検証する番組を制作したプロデューサー。犯人は狼男なのか……。
     刑事の春夫は、同窓生で新聞社文化部の記者・秋乃に紹介され、ある喫茶店を訪れます。鬱蒼と蔦の絡まる西洋館の〔喫茶・薔薇の蕾〕。その扉を開けると、闇の中に珈琲を焙煎する深い芳香が。聴こえてくるのは古楽の響き。ここは静かな闇と美味なる珈琲――そしてなによりも謎解きの好きな常連たちが集う一種の秘密クラブだったのです。
     ゲストは常連たちの前で、謎に溢れる自らの体験を話します。すると、それぞれの得意分野のニックネームがついた常連たちが、次々の推理を披露をするのがお約束。その日も春男の語る「狼男殺人事件」に、〈民俗学者〉、〈記号論〉、〈グッズ屋〉、〈怪奇俳優〉たちがそれぞれ論理的な解答を語り始めます。最後は〈映写技師〉が上映する古き良き名画のなかに謎を解く鍵が……。
     これまで珈琲の濃い香りはぼくの鼻にはちょっと強過ぎましたが、この小説を読んで好きになれそうな気がしてきましたよ、編集長。