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ジャーロ編集部が送る おすすめミステリー

「ここがぼくのプッシュポイント!」

こんにちは。「ジャーロ」編集部の見習い編集者、黒猫のアランです。編集長の指示を受け、毎号の新連載小説や小説特集でぼくが「ここだ!」と思う読みどころを押し売り的に紹介します。“押しのポイント”ですからね。いや、させてください! お願いします! ミステリー修行中の身ですが、肉球もつぶれろとばかりにプッシュプッシュでお薦めしまくります!

No.64
Vol.64新連載作品2018年6月22日発売

  • イラスト・宮崎ひかり

    〈二人の推理は夢見がち 2〉「未来を、11秒だけ」

    青柳碧人

     「たまにはちょっと一杯いこうか?」
    「ジャーロ」の校了がすべて終わって編集部がほっと一息つき、机まわりを片付けながら部員それぞれが開放感に浸っていた夜、珍しく編集長が皆を誘ってきました。
     見習いの立場ながら、ぼくも連れて行ってもらえることになりましたが、編集長のお誘い(おごり)である以上、行き先はお洒落なお店であるはずもなく、予想通り近所の安い居酒屋でした。
     皆が“(なま)(ちゅう)”のジョッキをぐーーっと傾けて「プハーッ」と幸せそうな顔で息を吐き出すのを、ぼくはお水を舐めながら眺めていました。ぼくはお酒が一滴も飲めないんです。「仕事の付き合い上、少しぐらい飲めたほうがいいんだが、体質なら仕方ないな」と編集長は言ってくれますが、体質というか、生物の「属」の問題というか……とにかく飲んだら倒れてしまうので居酒屋でも深皿に入ったお水をもらいます(コップだと舌が水に届かない)。でも編集長や先輩たちの話を聞くのは好きなので連れて行ってもらっています。
    (前から気になっていたのですが、「生ビールの中ジョッキ」のことを“(なま)(ちゅう)”と言う人と “(ちゅう)(なま)”と呼ぶ人がいます。どっちが正しいのでしょうね?)

     先輩たちのジョッキがビールからチューハイに変わり、会話も様々な方向へ飛びまくってきたころ、ぼくは小皿に分けてもらったお刺身(もちろん醤油もワサビもつけません)を少しずつ噛みながら、左右で繰り広げられるとめどない会話を聞き漏らすまいと、顔を左右に振って耳を傾けていました。
     すると既に酔った目になった編集長がぼくを見て、
    「この前テレビで、アランの親戚のすごい能力を観たぞ。獲物のネズミを捕まえるとき尻尾をゆらゆらと振るんだが、それを見たネズミは動けなくなってやすやすと捕まってしまったんだ。あれは催眠術みたいなもんだな。アラン、お前もできるんだろ、今やってみろ」
    「いや、無理ですって。その番組はぼくも観ましたけど、確かマヌルネコのことでしょ。親戚と言ったってかなり遠い親戚で、野性がたっぷり残っている連中です。ぼくらイエネコに、その技が使えるやつはいるのかなあ……」
    「なんだ、つまんないな。ここにいる誰かに催眠術をかけさせようと思ってたのに」
    「無茶言わないでください!」
     すると、酔眼をすっと細めた編集長は声を潜めて、
    「実はなアラン、俺にもとっておきの能力があるんだ。お前だけに教えてやるよ。誰にもいうなよ」
     編集長の向こう側で話を聞いていた女性の先輩が、アホらしいという顔で向こうを向いてしまった。
    「実はな……俺は瞬間移動ができるんだ」
    (おいおい大丈夫か、編集長……!)
    「ただし、いつもできるわけじゃないけどな。酒を飲んでいていろいろ考えたりするだろ。物思いに耽るってやつ。考えて考えて、そして極限まで集中力が高まると……なんと俺は酒場からいつのまにか移動してるんだ」
    「ど、どこに移動するんですか!?」
    「自宅だよ。気がつくと俺は自宅の玄関口に座っているんだ。誰にもできることではないだろうがコツはな、思念をとことん集中することだ。きっと理力(フォース)のようなもんだな」
    「………」
     アホらしい……まじめに話を聞いてしまった自分が情けないです……。単に泥酔状態で帰っただけでしょ。でも、意識も記憶もまだらな状態でも家にたどり着く能力、帰巣本能のようなものは編集長にもあるんだ。その点だけは、ぼくたちより高い能力を持っているのかもしれない。
     そんな編集長の「()()能力」ではなく、間違いなく能力を持つ登場人物が事件に巻き込まれるのが、「ジャーロ」59号~62号で連載した青柳碧人さんの「隣りの人間国宝 二人の推理は夢見がち」。今年4月には『二人の推理は夢見がち』のタイトルで単行本となりました。
    その内容は――青年・(つかさ)は「物」に触れて眠ると、その物に残留する記憶を夢として見る特殊能力があります。偶然バーで司と知り合い彼の能力を知った()()は、急死した祖父の死因に疑問を抱き、司を故郷に連れて帰ります。二人が祖父の死の謎を探り始めると、町には次々と不審な死亡事件が起こり、さらにその過程で早紀自身にも不思議な能力があることが分かってきます。それは腹話術人形を使って危険な未来を予知できる能力でした。不思議な「能力者」である二人が辿り着いた事件の真相とは!?
     そして『二人の推理は夢見がち』に続き、「ジャーロ」では今号から第2シリーズ「二人の推理は夢見がち 未来を、11秒だけ」が始まりました。
     冒頭から暴力的な事件に巻き込まれてしまう早紀。そして司と早紀の二人の能力者に加え、今シリーズではさらに別の能力者が登場します! 彼らの能力と推理を、ぜひお楽しみください。

    『二人の推理は夢見がち』 https://www.amazon.co.jp/dp/4334912176

    青柳碧人さんの「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」は、ジャーロVol.59から連載が始まりました。最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・佐久間真人

    「きょ~わ国から来た男」

    北原真理

    早朝のこと、「ジャーロ」編集部のあるフロアはまだ人があまり出社しておらず、閑散としていました。ぼくは朝はお腹が空くと目が覚めてしまうほうなので、早めに出社して静かな時間に薦めてもらったミステリー小説を一冊一冊読み進めるようにしています。早く先輩たちとミステリー談義ができるようになりたいですからね。
    すると、隣の書籍編集部のT先輩(アラフォーの男性)がパソコンに向かいながら、なにかブツブツ言っているのが聞こえてきました。
    「そうくるか……」「くそっ、意味が分からん手を」「マジかよ! そっちを取る?」
     と、なんだか不機嫌そうな声。
     そっと後ろに回って先輩のパソコンの画面を見ると将棋の盤が映っていて、T先輩は頭の後ろで手を組んで「あ~、やっぱ強いな、こいつ」とため息。
     ぼくが画面を覗き込んで「先輩、将棋のソフト入れたんですか」と話しかけると、びくッと振り向いて「なんだよ! 急に声かけるなよ!」。
     ぼくは足音をほとんどたてないので、後ろから近づいて声をかけると大抵の人間は驚くんですよね。
    「言っておくけど仕事はちゃんとしてるからな。いまちょっと休憩してただけだから」
     休憩にしてはずいぶん長かったけど、「分かってます、誰にもいいませんから。先輩、将棋が好きなんですか?」
    「まあね。小学生のころから好きだけど、近ごろのソフトは本当に強くてまるで歯が立たんね。ソフトをかなり弱いモードにしてなんとか勝負になる程度だよ」
    「ぼくは将棋のルールは知りませんが、永世七冠でしたっけ、国民栄誉賞をもらった()()(よし)(はる)さん、それと最近ワイドショーでも取り上げらている(ふじ)()(そう)()さんの名前ぐらいは知ってますよ。先輩、今度ぼくにも将棋の指し方を教えてくださいよ」
    「もちろん教えてもいいけど、アランでも二人の名前を知ってるか。やっぱり羽生効果、藤井効果は大きいんだな」
    「将棋ソフトって羽生さんや藤井さんでも勝てないぐらい強いんですかね?」
    「嫌なこと訊くね、アラン。羽生、藤井の強さはプロのなかでも別格、人間離れしている。彼らならソフトにも勝てる……と言いたいところだけど、正直、難しいかもしれないね。前に人間とソフトが対戦する『電王戦』という企画があったんだけど、当初は人間がいい勝負をしていた。でも、だんだん高段位のプロ棋士でも強豪ソフトに歯が立たなくなり、満を持して登場した()(とう)(あま)(ひこ)名人がponanzaというソフトに敗れたところで、人間対ソフトの企画自体が終了したんだ。羽生、藤井の二人は公ではソフトと対戦していないけどね」
    「だんだん勝てなくなったのは、ソフトの進歩が早かったんですかね?」
    「そうだな、俺も詳しい理屈は分からないが、AIの進化は予想より遥かに早いらしい。ゲームではまずチェスとオセロで、人間の牙城が崩されたんだ。1997年に『ディープ・ブルー』というコンピュータが人間の世界チャンピオン・カスパロフに2勝1敗3引き分けで勝ち越し、今では人間はほぼ勝てなくなった。同じ年、日本人のオセロ世界チャンピオン(むら)(かみ)(たけし)さんが『ロジステロ』というソフトに6連敗したという衝撃的な結果が出ている。
     囲碁は、ソフトが人間に勝つのは将棋より10年以上かかると言われていたけど、2016年に『AlphaGo(アルファ碁)』が世界トップレベルの棋士、李世ドルイ・セドルに4勝1敗で勝ってしまった」
    「先輩、めちゃくちゃ詳しいですね……」
    「人間としてなんか悔しいからな、かなり調べてみたんだが……もはやゲームの世界では人間対コンピュータソフトという構図自体が成り立たないほど差がついたと思う」
    「そうだとすると、もはやゲームをやる気がしなくなりますね……」
    「何を言う! そんなことは断じてない!」
    「先輩、朝から声が大きいです」(っていうか、顔が怖いんですけど)
    「人間がソフトに負けた後、藤井聡太という天才の登場で将棋を習い始める子どもが増えたのはなぜだ! ()(やま)(ゆう)()の出場する囲碁の世界戦が盛り上がるのなぜだ! オセロがなくなったら、おじいちゃんと遊びに来た孫が遊べなくなるじゃないか!」
     最後のおじいちゃんは意味がわからんぞ。そして、先輩の圧力がとんでもなく高い。
    「アランはミステリーを読んでいるんだろ。だったらモリアーティ教授の存在があってこそホームズは輝きを増したのは分かるよな。怪人二十面相と明智小五郎もまたしかり。人間同士の頭脳の限りを尽くした戦いにこそドラマがあり、魅力があると思わないか? だから俺はヤツに負けん!」
     と熱く語った先輩は、また将棋ソフトに向かっていきました。
     確かに人間と人間の頭脳戦には心躍ります。ミスをおかしたり、真相に気がつくのが遅かったり、人間であるがゆえに完璧とはいかないけど、その“抜け具合”にも惹かれるものがあるようにも思います。
     そんな人間同士の頭脳戦だからこそ、手に汗をにぎってしまう作品が、今号の「ジャーロ」にも載っているのです!
     今年の日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞された北原真理さん。受賞作の『沸点桜(ボイルドフラワー)』は、歌舞伎町でセキュリティをしている女が、風俗店から逃亡した美少女を連れ戻しに行ったところ殺し屋に狙われるはめに。二人の逃避行の行き着く先は……というハードな作品です。受賞後第一作となる「ジャーロ」掲載の短編は「きょ~わ国から来た男」というタイトルで、受賞長編とはうって変わって謎解きとサスペンス色の強い軽快なミステリーです。
     試験の成績は超優秀、頭脳明晰、運動神経も抜群の男が警察大学校に入学します。指導教官たちも次代の日本警察を担う大器と期待していたのですが……実際の人物は、命令されたことを(からかわれていると)疑いもせず愚直にやり続けるだけで、血を見れば悲鳴を上げる怖がり。「頭の良いアホ」と認定されてしまった男・(あお)西(にし)()()()はその実、腕っこきの諜報部員で、近々、警察大学校に届くはずのある極秘情報を守る指令を受けていたのです。
     極秘情報を狙っているのは近隣の国「きょ~わ国」のスパイ。学校の物理的な防御も、サイバー空間の進入検知システムなどの障壁も易々と突破してしまう、凄腕にして顔の見えない敵。警察大学校という閉鎖空間で、青西対敵スパイの一対一の戦い、頭脳と肉体の限りを尽くしたタイマン勝負が繰り広げられるのです!
     やっぱり人間対人間の戦いの魅力は永遠ですよね、先輩。
    「ちっきしょ~、また負けた~」と、隣の編集部からまたT先輩の声が。昼休み、今度は他の部員と本物の将棋盤を挟んで対局してます。朝、ソフトと戦っていたのはこの相手に勝つための練習だったようですが(「ヤツに負けん!」の「ヤツ」は相手の人のことだったみたい)、でも結局、人間相手にも全然勝てないようで……。

    北原真理さんの「きょ~わ国から来た男」は、ジャーロVol.64に掲載中です。

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  • イラスト・旭ハジメ

    「六人の熱狂する日本人」

    阿津川辰海

     午前中の編集部、眠そうな顔で出社してきた編集長に、ぼくは借りていた映画のDVDを返しました。
    「いやあ、面白かったです。最初は展開がゆっくりなように感じられて、どうかなあと思っていたのですが、編集長の言う通り、途中から一気に引き込まれました」
     借りていたのは『十二人の怒れる男』という今から60年も前の映画。いわゆる法廷もので、父親殺しの罪に問われた少年の裁判において、12人の陪審員が評決を議論します。
     そう、アメリカは「陪審制度」の国です。日本でも平成21年から「裁判員制度」が導入され、国民の刑事裁判への参加が促進されてきましたが(来年で裁判員制度も十周年になるんですね)、この二つの制度は内容が少し異なるのを、今回の映画を観てから調べてみました。
     ざっくりと言ってしまいますと、アメリカやイギリスなどで採用されている陪審制度は「陪審員のみが犯罪事実の認定(有罪かどうか)を行い、裁判官は法律問題(法解釈)と量刑(刑の種類や程度の決定)を行う制度」です。一方、日本の裁判員制度は「裁判員と裁判官が合議体を形成」し、かつ「裁判員は事実認定と量刑を行い、法律問題は裁判官のみで行う」とのことです。
     もっともっとざっくり言ってしまうと、裁判員制度は陪審制度と異なり、裁判官と裁判員が共同で、有罪無罪だけでなく量刑についても議論することが特徴です(でいいと思うのですが……)。
     映画『十二人の怒れる男』は、裁判官の介入無く陪審員だけで、密室内で議論する過程が魅力的でした。映像的な場面転換はほぼないのに、進むにつれて目が離せなくなっていきます。
     プロの裁判官ではないごく普通の市民が議論を重ねていくうちに、最初は早く終わらせて帰りたがっていた人もだんだんのめり込んでいき、そして自分たちが下す有罪無罪の決定が一人の人間の生死を決めてしまう重大なことだと気づき、最終的には有罪と無罪の間で揺れ動く針が最初とは真逆を指すことになる……このスリリングな展開はまさにドラマチックであり感動的でした。

    「編集長、本当に感動的な結末でしたよ。一人の男が粘りに粘った議論を展開することで、他の人間を一人また一人と説得していく……。ぼくも裁判員に選ばれたら正義のために本気で議論したいですね!」
    「人間の裁判員にお前が……? ま、まあ、そう気負うなって。もし、裁判員候補者名簿に登録されたという通知が来たら考えればいいって。
    確かにあの映画は感動的だけど、アメリカの陪審制度は市民だけが参加し、有罪か無罪の評決では全員一致を原則としているからね。市民の全員一致が求められているからこそ、ああいうドラマが生まれるんだと思うよ。一方で日本は多数決だからねえ。映画のようにはいかないかも。でもまあ、密室心理劇の基本ともなった映画だし、オマージュ作品も多数生まれているから、ミステリーの編集をやりたいなら、見ておいて損はないよ」
     編集長は日本の裁判員制度でドラマチックな展開はないかもと、ちょっと冷めて見ているようですが、いえいえそんなことはありません。
    「ジャーロ」64号で掲載した阿津川辰海さんの「六人の熱狂する日本人」を読んだとき、ぼくは確信しました。「日本の裁判員制度にもドラマはある!」と。
     阿津川辰海さんは、「ジャーロ」誌で募集した新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」において選ばれた『名探偵は嘘をつかない』(光文社)で、2017年6月にデビューした新人作家。『名探偵は嘘をつかない』だけでなく、「ジャーロ」62号掲載の短編「透明人間は密室に潜む」など、特殊設定、特殊ルール下での謎解きを得意としています。
     今回の「六人の熱狂する日本人」は、裁判員として集まった6人の男女と、一緒に議論を進める裁判官3人が主人公。評決すべき事件とは、あるアイドルグループのファンであるオタクの二人が加害者・被害者となった殺人事件です。
     映画『十二人の怒れる男』と同様に、6人の裁判員と3人の評議員が密室で議論を続けてきて、評決する最終日を迎えたところから物語は始まります。犯人も自白して罪を認めており証拠もそろっていて、ごく簡単な事件だと皆が思っていました……この最終日までは。でも最終審議を始めようとする部屋に、裁判員の一人の男がトイレから戻ってきた姿を見て、全員が固まります。彼は事件の加害者・被害者がファンであるアイドルグループ『Cutie Girls』の真っピンクのTシャツを着て戻ってきたのです。彼もまた『Cutie Girls』を愛するオタクだったのです。その姿をあえて見なかったことにして、最終評決に向かって話し始める残りの人々。しかし、そのオタク裁判員が“極刑”の判決を求めたところから、問題無く終わるはずだった評議はおかしくなっていきます。そして一人、また一人と意見を覆し始めて……(その理由が読んでからのお楽しみです)。
    オセロのように、白だったものが一枚一枚、黒に変わっていく様は、もはや息をのんで見守るしかありません。間違いなくここにはドラマがあります!

    『名探偵は嘘をつかない』https://www.amazon.co.jp/dp/4334911633/

    阿津川辰海さんの「六人の熱狂する日本人」は、ジャーロVol.64に掲載中です。

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No.63表紙画像
Vol.63新連載作品2018年3月23日発売

  • イラスト・田尻真弓

    〈女神の苦笑〉「映画館の妖精」

    宮部みゆき

     いい夫婦の日をすすめる会が毎年行う「いい夫婦の日アンケート」という調査があります。その2017年度のアンケートに「生まれ変わったとしたら、今のパートナー(夫もしくは妻)を選びますか」という質問がありました。
     回答は「もちろん今の相手を選ぶ」「どちらともいえない」「別の人を選ぶ」の三択です。結構、本音に切り込んだ質問ですね。
     結果を見てみると、男性50代で「もちろん今の相手を選ぶ」と答えたのは32.0%、男性60代では37.0%。逆に男性50代で「別の人を選ぶ」と答えたのは20.0%、男性60代では16.0%となっています。
     一方、女性50代で「もちろん今の相手を選ぶ」と答えたのは27.0%、女性60代では23.0%。女性50代で「別の人を選ぶ」と答えたのは26.0%、女性60代では26.0%となっています。
     長年連れ添ってきたであろう50代、60代の夫婦では、生まれ変わっても同じ相手と結婚したい人の割合が高い男性側の思いに比べ、女性側は別の相手を選びたい人の割合が男性より多いという結果です。かなり冷めているというか、つれないというか……。男性にはちょっと厳しい数字ですねえ。
     50代~60代は、勤め人の家ならば、定年を迎えたか間もなく迎える世代。会社から離れ、夫婦の時間が増えていく時期を迎える人たちです。「いい夫婦の日」のアンケートなのに、なんだか心に引っかかるものがある回答ですね。ぼくはまだ独身ですが、男女の数字の差を見て、わけもなくドキドキしてしまいました。
     60号より始まった宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズでは、運命の女神でさえ苦笑するしかないような偶然の積み重なり、連鎖、連結に巻き込まれた人たちを描いています。
     今号の「映画館の妖精」では、夫がまもなく定年を迎える夫婦が主人公。夫の(にら)(やま)(あき)(ひろ)は優秀なサラリーマンで、定年後も系列会社での再雇用が決まっており、二人の子供を立派に育て、妻にも義母にもいい暮らしをさせてきたと思っています。「俺は人生に成功した男なのだ」という自負を持っているのです。
     ある日、明宏が家に帰ると、妻の()()()が台所で顔を覆って泣いているのを見てしまいます。どうしたんだと尋ねるのに答えず、美沙子は一度台所を出て行くと、しばらくして外出着に着替えた姿でボストンバッグを手に戻ってきました。
    「こんな話をしたら、もうこの家にはいられないから」と言って、自分の人生を後悔する気持ちが止まらないと語りだした美佐子の話とは……。
    「夫」の皆さんには心落ち着かない出だしですよね。それでもきっとページを捲る手が止まらなくなる驚きの展開の物語です!
     ところで最初に例を挙げた「いい夫婦の日アンケート」に「あなた方ご夫婦が円満のために、大切だと思うことを教えてください」という質問もありました。これに対して50代、60代の男女とも、もっとも回答が多かったのが「話をする・聞く」です。なんだ、なにが大事か、なにをすべきかお互いに一致しているじゃない。それでも「生まれ変わったとしたら、別の人を選ぶ」と答えた女性が男性より多かったということは、男性側がこの「大切だと思うこと」をしていないということなのでしょうか。
     結婚って難しいんですね。なんだか自信なくなってきた。っていうかその前に、まだ見ぬぼくのお相手はどこにいるんだ~!?

    宮部みゆきさんの〈女神の苦笑〉は、ジャーロVol.60から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・チカツタケオ

    〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉「あなたと一緒に踊りたいの!」

    前川 裕

     少し前のことになりますが、ロンドン大学UCLの科学者チームが「他人の不幸に対し人間がどう反応するか」を調べた研究結果を英科学誌「ネイチャー」に発表しました。
     科学者チームは、4人の俳優が金銭のやり取りをする演技を被験者に見せる実験を行ったのですが、その4人のなかに借りた金をきちんと返す誠実な役と、ほとんど返さないずるい役を入れていました。演技のあと、相手役の4人に軽い電気ショックを与えるところを被験者に見せ、脳をスキャンした結果、男女の反応に大きな差がみられたというのです。(うーん、正直なところ電気ショックの実験はあまり見たくないです。想像しただけで毛が逆立ってきます)
     借金をきちんと返した俳優、つまり好感を持った人が苦痛を受ける場面では、男女とも脳の「共感」「痛み」を感じる部分が活発に反応し「同情」を感じていたとのこと。(まあ、それはそうですよね)一方、借金を返さないずるい人、つまり嫌いな人が苦しんでいる姿を見ると、男性では「共感」の反応がまったくみられず、「報酬」を得たときに反応する「満足感」の部分の反応が大きかった。同じ場面を見た女性は、僅かながら「共感」の反応が出たそうです。
     つまり「他人の不幸を喜ぶ気持ち」は女性より男性のほうが強いということになったのです! 「ざまあ見ろ!」という感情ですね。ずいぶん変わった研究をしたものですね、このチームは。
     別のアンケートでも、男性のほうが女性より復讐心が強かったり、嫉妬心も男性のほうが強いという結果もあったりしますよね。ぼくが言うのもなんですが、この通りだとするとなんだか男って怖いですね。
     60号より連載がスタートした前川裕さんの「犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル」シリーズ。日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したデビュー作であり、映画化もされた『クリーピー』の主人公・高倉が探偵役の連作短編です。古今東西の猟奇犯罪に精通し犯人の心の襞に分け入ることができるその能力をフルに活用して、高倉は犯人を追い込み、またときには情をもって犯人を説得します。
     今号に掲載の「あなたと一緒に踊りたいの!」では、高倉と同じ大学の英米文学科に勤める女性の専任講師・(かぶら)()()()が中心人物となります。33歳の由香は、生まれてから15歳までアメリカで育ったバイリンガル。日本に戻ってきてからは、英語をネイティブの発音で話せることにより、同級生や英語教師からも嫉妬ゆえの意地悪をされてきました。でも彼女自身は「バイリンガル=どちらも完全なネイティブではない中途半端な状態」に劣等感を感じているのでした。自分が負い目に感じていることで嫉妬されてしまう、つらい状況ですよねえ。
     そこで由香は大学在学中に日本語を磨き上げ、小説も書き始めます。そして大学院を経て大学に就職してから、純文学の文学賞の新人賞を受賞してしまうのです。
     折りしも由香の英米文学科では授業を英語だけで行うことが推奨され始め、バイリンガルにして作家デビューも果たした由香は、まわりの教授たちの嫉妬と憎しみを一身に受けることに。なかでも学科主任は由香に好意を寄せていたにも関わらず拒否されたことから、表に裏に陰険に由香の足を引っ張り始めるのです……。まさに「他人の不幸を喜ぶ」タイプの男が、嫉妬にとりつかれた状況! いやあ、ぼくも男ですが、この状況は怖い!
     そんな由香にとって唯一の救いが、大学以来の友人で同じ学科に勤める()()の存在。小説の相談相手でもある志保がいるからこそ由香は頑張れるのですが……あるとき二人の関係に隙間が生じることが起きてしまい……。
     人間心理に名医のメスのように的確に切り込んでいく推理力と、犯人の哀しみを理解する優しさ。高倉のふたつの面をたっぷり読むことができる一篇です。
     ぼくも人間の言葉と猫の言葉が使えるバイリンガル(?)ですが……これまで嫉妬されたことはないですねえ。だいたい、猫の言葉が使えても仕事が有利になることなんかなにもないですからね。どちらかというと分かるがゆえに面倒なことが多いかも。特に春のいま、外からは愛の言葉を交し合う猫のカップルの声が聞こえてきて、まったく頭にきます! あっ、これは嫉妬?

    前川 裕さんの〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉は、ジャーロVol.60から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・平澤貴也

    〈南美希風・国名シリーズ〉「或るエジプト十字架の謎」

    柄刀 一

     突然ですが、「クイーン」という言葉から何を連想するでしょうか。
     編集部でぼくのすぐそばに座っている某おじさんは「クイーン? そりゃフレディでしょう。『エルム街の悪夢』だと? 違~う! そっちが先に出るか、普通!? フレディ・マーキュリー! お前でも聞いたことぐらいあるだろ。ああ、あの美声、あの動き、そしてあの胸毛……。よーし、今夜はカラオケで “WE WILL ROCK YOU”だぁ~!」
     勝手に盛り上がっている人は放っておいて、ごく普通に「女王」を想像する人も多いでしょうね。現代で最も有名な女王はイギリスの「エリザベスⅡ世」でしょうか。66年にわたって女王位にあり続けるあのお姿が思い浮かびます。
    「トランプ」と答える人もかなりいるかも(大統領じゃなく、カードのほう)。トランプの絵札にはそれぞれモデルがいるらしく、「クイーン(Q)」の絵のモデルは、ハートがユダヤの伝説上のヒロインのユディト、スペードがギリシャ神話の女神アテナ、ダイヤが聖書に登場するヤコブの妻ラケル、クラブがエリザベスⅠ世(エリザベスⅡ世の直系の先祖ではなく、遠い親戚)だとか(諸説あるうちの一説)。
     ちなみにトランプの四種のマークにもそれぞれ意味があり、スペードが剣で騎士を、ダイヤは貨幣で商人を、ハートは聖杯で僧侶を、クラブは棍棒で農民を表しているそうです。
     そしておそらく「ジャーロ」の読者に多いと考えられる答えが、「クイーンといえばエラリー」ではないでしょうか。
     エラリー・クイーン――フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの二人(従兄弟同士)の共作のペンネームであり、彼らが生み出した名探偵の名前でもあります。アガサ・クリスティーなどと並んで、二十世紀の本格推理小説の黄金期を代表する作家だと、ぼくも先輩たちから教わりました。
     そしてエラリー・クイーンの代表的な作品に「国名シリーズ」というのがあって、その名の通りタイトルに国名を冠した作品群です。『ローマ帽子の謎(秘密)』から『スペイン岬の謎(秘密)』までの9作で、主人公は名探偵のエラリー・クイーン……とこれも先輩から教わったこと。
     上のタイトルで『謎(秘密)』と書いたのは、実はいま創元推理文庫と角川文庫から国名シリーズの「新訳版」が出ていて、創元推理文庫が『~の謎』、角川文庫が『~の秘密』と末尾の語を変えているのです。どちらのシリーズでもいいと思いますので、ぜひ国名シリーズを手にとってみてください。ぼくもいま、楽しくシリーズを読み進めています!(さらにちなみに、角川文庫のカバーイラストのエラリーはかなりイケメンですよ)
     さて今号より、そのエラリー・クイーンの国名シリーズに、本格ミステリーの王道を歩む作家・柄刀一さんが挑戦するシリーズを掲載します。柄刀版国名シリーズの主人公はカメラマンの「(みなみ)()()(かぜ)」。これまで数々の謎を解いてきた男です(美希風のシリーズは光文社文庫より刊行されています)。そして今回挑むクイーン作品は、国名シリーズのなかの最高傑作との評判も高い『エジプト十字架の謎(秘密)』です。
     美術大の学生のゼミ旅行に写真をレクチャーするため同行した美希風。コテージに分散して宿泊する楽しい旅行も、二日目の朝に発見された異様な死体によって、凄惨な事件現場へと変わってしまうのです! 心臓に持病を抱える若き推理の天才・美希風は、どのように十字架の事件に立ち向かうのか!?
     エラリー・クイーンのファンの方はもちろんお楽しみいただけると確信していますが、これまで一度もエラリー・クイーンを読んだことのない方もご安心ください。柄刀版国名シリーズは予備知識がなくても大丈夫! 驚愕の殺人事件と、世界が逆転するような鮮やかな推理を堪能できること間違いなしです。

    柄刀 一さんの〈南美希風・国名シリーズ〉は、ジャーロVol.63から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・浅野隆広

    〈ディザスター・シリーズ〉「善人なおもて往生をとぐ」

    鳥飼否宇

     今年もまたプロ野球のシーズンが近づいてきました。3月30日に開幕だとか。お隣の編集部のいつも騒がしいおじさん編集者も、スポーツ紙やネットをチェックしてはお気に入りチームの戦力診断に余念がない。
    「1番田中、2番菊池、3番丸の“タナキクマル”は今年も鉄板、全球団一! 鈴木誠也が四番に定着してくれたら、エルドレッドや新井とともに打線は完璧じゃろ。一方の投手陣も薮田に野村、ジョンソンに大瀬良もおるし……うひょーっ! このローテはぶち贅沢じゃけぇ」
     と、聞いているぼくはなにが「全球団一」で「贅沢」なのか、まるで理解できない人名を羅列し奇声を発しています。奇声も変ですが、普段は言わない方言が出てますよ、先輩。
     (ただしこの方言はぼくが聞きとったものですので間違いがあるかも、です)
     あと奇声を発しながら赤いメガホンを振り回さないでください。ぼくは素早く動くものについ反応して目が追いかけてしまうんですって。
    「今年も“マツダスタジアム”に遠征して同士とともに応援するか! あっ、でもなぁ……」
     急に標準語に戻った先輩の声が落ち込んでる。
    「なんかまずいことでもあるんですか?」
    「いやね、俺が“マツダ”に応援に行くと必ず雨が降るんだ。過去何年も必ずね。前日や翌日が晴れていても、その日だけは雨。ホームスタジアムで応援はしたい。でもチームや同士のファンたちが俺のせいで雨にさらされるのは忍びない」
     (はあ? 何言ってんの、この人。雨男だからってこと?)
    「いや、大丈夫ですよ、先輩のせいで雨が降るわけないじゃないですか」
    「お前は知らないんだ。俺の“マツダスタジアム雨男”力がどれほど強いかを。必ず、絶対、確実に、100パー、俺が行けば降る! いや降らせてみせる!」
     なんだこのアホな自信は……。
     2017年発表の統計によると日本の1年間の平均降水日数は約122日。つまり年の三分の一は全国のどこかで必ず雨が降っている確立になります。
     そもそも、水蒸気を含んだ空気がある地域に現れ、その水蒸気が結露して雨となって落下するという壮大な自然現象と、先輩が「今日も絶対勝つけぇ!」と叫びながらたまたまその日に“マツダ”に乗り込むのことに、因果関係があるわけないですよ。
     あと、「自分は大事な日に限って悪いことが起きる」と思い込んでる人間は多いですが、悪いことが起きるとそのことは強烈に記憶に残り、なんども思い返しているうちにさらに記憶に刻まれ、自分にとっての絶対法則になってしまう……という現象もあるらしいですよ、先輩。
     そんな「雨男(雨女)は偶然でしかない」説を覆してしまうのが、鳥飼否宇さんが今号より連載を始めた「ディザスター・シリーズ」です。主人公はネットニュース配信会社社長(といっても社員は一人)の郷田と、アシスタントとしてこき使われるアルバイトの三田村。「夜尿症にはナマズエキスが効く!」だの「独占取材 十六回転生した少女」といった、三流としか言いようのない“ニュース”を配信している彼らは、なぜか取材先で災害に出くわしでしまうのです。それこそ先輩の“マツダスタジアム雨男”力より遥かに大きな力が働いたかのように。
     そして偶然撮影できた災害の“スクープ映像”のなかに、災害で亡くなったはずの人が実は殺人の被害者である可能性を示すものが映り込んでいて……。
     今回は、「南の島で伝説の人魚を発見‼」などという“ニュース”をでっち上げようと沖縄の離島に赴いた二人の目の前で、住宅火災が起きて……。鳥飼否宇さんならではの不可思議な事件と解決をお楽しみください。
     ところで先輩の悩みに、ぼくはいい解決法を思いつきました。
    「そうだ、悩みの解消は簡単ですよ。屋根付き球場をもつチームのファンになればいいんです。巨人とか西武はどうです?」
    「バカたれ! 本末転倒じゃろうが」
     振りかぶった赤いメガホンが、ぼくの頭に思いきり直撃したのでした……。

    鳥飼否宇さんの〈ディザスター・シリーズ〉は、ジャーロVol.63から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・知子

    「暗黒室の殺人」

    大山誠一郎

     先日の部の飲み会での話。例によって酔っ払った編集長が「実は俺ね、高所恐怖症なんだよ。ふふふ」と、自らの高い場所での恐怖体験を事細かく説明しますが、なんとなく自慢気なその顔。恐怖症なのがなんで自慢なのでしょうか。どうもその高い所から落ちた自分を想像して怖くなるのだとかで、
    「まあ、それだけ俺が繊細の神経と豊かな想像力の持ち主ってことだな」
     なるほど、そういう自慢ね。
     すると他の部員からも、閉所恐怖症だの暗所恐怖症だの、はたまた先端恐怖症から昆虫恐怖症まで、様々な恐怖症話で飲み会は盛り上がっていきました。恐怖症なのがそんなに楽しいのかな? この前聴いた落語の「まんじゅうこわい」と同じことなの?  今ひとつ会話に乗れなかったぼく。ぼくは高いところは全然平気で、屋根や塀を見ると登りたくなる。狭いところは大好きで、体ぎりぎりのサイズの箱に潜り込みたい。暗いのは嫌いどころか、逆に安心できるし無性に走り出したくもなる。先端は……人が指を突き出していると、指先のにおいを嗅ぎたいかな。昆虫を見ると、手で押さ付けたい衝動を止めるのに必死です。周りの人に嫌がられるから。
     うーん、やっぱりみんなの恐怖症が分からない。
     今号で掲載した大山誠一郎さんの「暗黒室の殺人」は、そんな暗所恐怖症、閉所恐怖所の人なら悲鳴ものの状況で事件が起きます。
     ビルの地下2階にあるギャラリーを訪れた、お互いに面識のない男女。近くの道路で起きた陥没事故の影響で突然ビルが停電し、エレベーターは動かないし非常扉も開かない! 受付嬢を含めた五人は地下の真っ暗な閉鎖空間に取り残されてしまったのです。携帯電話の電波は届くので外部との連絡は取れ、救助を待つことになった五人。暗闇のなかスマホの明かりだけを頼りにお互い自己紹介するのですが、突然明かりの届かない闇の中で何者かの悲鳴が響き、明かりを向けると倒れている男が。五人のうちの一人が殴り殺されていたのです。犯人は残った四人のなかに……!?
     たまたまこの四人のなかにいた()()(そう)()。彼は警視庁捜査一課の警部で、これまで数々の事件を解決してきた男です。それも実は自らには謎解きの能力がないのに、周りの容疑者たちが勝手に推理を始めてしまうという“特殊能力”によってでした。この“特殊能力”を和戸自身は「ワトソン力」と命名しています。本家シャーロック・ホームズとワトソンがそうであるように、数々の名探偵がワトソン役をそばに置いているのはなぜか。それはワトソン役が名探偵の推理力を高める力=ワトソン力があるからではないか……という考えからです。
     名探偵のいないワトソン役、それが和戸で、名探偵に代わるように容疑者や関係者が和戸を差し置いて推理合戦を始めてしまい、結果、事件解決の功績は和戸のものになってきたのです。他力本願の塊のような“結果的名探偵”、それが和戸宋志です。  さて自分を除いて容疑者は三人。暗闇のなかで、またも和戸のワトソン力はこの三人に影響を及ぼすのでしょうか。次々出てくる推理の論理展開と、驚愕の結末をお楽しみください。
     飲み会のあと、ぼくにもなにか恐怖症はないかなと考えていました。編集長の強めの柑橘系コロンや腰痛の湿布薬の匂いはだいぶ馴れてきたし、それらは“怖い”というより“嫌い”だよな……。あっ、あった。絶対的恐怖の対象が! アレがいる限り、ぼくに平穏な日は訪れない存在が。大きな雄叫びをあげながら、どこまでもぼくを迫いかけてくる、とんでもない怪物!
     ねえ皆さん、掃除機恐怖症ってありますよね!

    大山誠一郎さんの「暗黒室の殺人」は、ジャーロVol.63に掲載中です。

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  • イラスト・伊藤彰剛

    「父の手法」

    曽根圭介

     「リドル・ストーリー」と呼ばれる小説が好きです。ミステリ修行中の身のぼくに、先輩が「これも読んでおいたほうがいいよ」と貸してくれた本に、ストックトン作の「女か虎か?」が収録されていました。
     リドル・ストーリーの代表作と言われるこの小説は、その性格上ネタバレになるようなものではありませんので、あらすじをざっと記しますが、もし予備知識無しで読みたいと思われる方は、この先は読まないでくださいね。

     ある国の王女が身分の低い若者と恋に落ち密会を重ねますが、二人の関係が王様にばれて、若者は処刑されることになります。その処刑法とは、闘技場に連れて行かれた若者が二つある扉のどちらかを選んで開けなければならないというもの。一方の扉のなかには飢えた虎がおり、もう一方の扉にはその国で最も美しい娘がいるのです。
     虎の扉を選ぶと若者は喰い殺されてしまいますが、娘の扉を選ぶと罪が許され、その娘と結婚することになるのです(必ずその娘と結婚しなくてはならないルールです)。
     扉のなかにどちらがいるか、もちろん闘技場の観客も知らされていないのですが、王女は手を尽くして扉のなかを知ることができたのでした。
     王女には究極の二択ともいうべき選択が委ねられたのです! 愛する若者が虎に食われるなど耐えられない。でも、自分より美しい娘と若者が結婚することも我慢できない……。
     そしてついに処刑のときが来て、闘技場に出された若者が観客席の王女と目が会ったとき、王女は密かに手で合図をし、開けるべき扉を若者に示しました。
     果たして、合図をした扉とは!?

     物語はここで終わりです。結末はありません。それは読者に委ねられているのです。こういう小説を「リドル・ストーリー」と呼ぶことを、先輩に教わりました。「結末がないのが嫌いな人もいるけどね」と付け加えていましたが、さらに「どちらの結末だと思うか、酒飲みながら話すと盛り上がるよ。でも、男女で意見はけっこう分かれるなぁ」だそうです。
     ぼくは面白いとおもいましたけどねぇ。自由に発想できるし、結末の場面を想像するのも楽しい。
     こういう、存在しない結末を想像するのも「結末の楽しみ」のひとつだと思いますが、一方で最後の最後でのどんでん返し、読んでいる途中のあらゆる予想が最後に覆されるタイプの小説もあります。「衝撃のラスト一行」といった惹句が付けられるタイプですね。
     特にミステリーに多いと思いますが、これもまた「してやられる愉悦」があると思います。そして、この「してやられた感」は長編小説もいいのですが、短編小説で見事に騙されたり、ひっくり返されたりすると、さらに高まる気もします。
     今号で登場していただいた曽根圭介さんは日本ホラー小説大賞短編賞、江戸川乱歩賞、そして日本推理作家協会賞短編部門を受賞されています。つまりホラーもミステリーも、そして短編も長編も得意とされており、どちらも独特の世界観に読者をグッと引き込みます。
     なかでも短編では最後の「してやられた感」をいつもガッチリ用意してくれていて、今回の「父の手法」も、最終ページでこれまで読み進めてきた世界をがらりと変えてみせてくれます。
     主人公の女性は、かつてジャーナリストを志したこともありましたが、今は介護付き老人ホームで見習い介護士として働いています。ある日彼女は、ホームにいる認知症の老人からまったく別人に間違われてしまいます。老人に「俺に仕返しにきたんだろう」と言われたことが気になった彼女は、その間違われた名前を調べていきます。すると、かつてあった死体遺棄事件にぶつかるのです。その事件の容疑者は女性で、すでに有罪が確定して刑務所に入っていますが、未だ冤罪を主張しています。認知症の老人からさらに「死体遺棄は自分がやった」という告白まで聞き出した主人公は、かつてのジャーナリスト志望の気持ちが再び目覚めたかのように自ら調査に乗り出します。そして彼女は犯人とされる女性の夫に辿り着き……。
     読み進めるうちに、主人公の前で口を開ける謎にぐいぐい引き込まれ、そして最後には……。まさに“企みの作家”といえる曽根圭介さん。その手腕を存分に楽しんでください!

    曽根圭介さんの「父の手法」は、ジャーロVol.63に掲載中です。

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  • イラスト・夜久かおり

    「宮本くんの手」

    澤村伊智

     最近、落語にはまっています。“らくこ”とか“落女”と呼ぶらしいですが、落語好きの女性(女子)の先輩にいろいろ教わって、CDを貸してもらったり、寄席に連れて行ってもらったり。
     おかげで落語にはぼくの仲間も結構登場しているのが分かったのですが、どうもその扱いがあまりよくない気がしますね……。『太鼓腹』では鍼をうたれて危うく殺されそうになるし、『金明竹』では大切な爪と髭を切られちゃうし、『堀の内』ではそそっかしい男に手ぬぐいと間違われて顔を拭かれるし(後の毛繕いが大変そう)、聴いているだけで尻尾の毛が逆立ってきます。
     あと、“泥棒猫”というひどい言葉が人間界にあるからか、魚を盗む悪役も多いです。『猫の災難』では危うく冤罪事件に巻き込まれるところだったし(別バージョンの『犬の災難』は溜飲が下がりますけどね)、『猫と金魚』などでも悪賢い悪戯者です。その他、化け猫としての登場もたくさん。
     一方、犬のほうも確かに扱いの悪い(はなし)が多いです。先ほどの『犬の災難』もそうだし、『犬の目』など、目玉をくり抜かれてしまう怖しいネタです。でも、犬には『元犬』という、猫からするととてもうらやましい噺があります。
     一本の差し毛もない真っ白な犬(白い犬は人間にいちばん近い存在だとか)が、人間になりたいと八幡様にお百度を踏むと、本当に人間になれたという噺なのですが、こんなに扱いのいい噺は猫にはないような気がします。
     猫は人間のそばにいる者のなかでもとても思慮深い存在だからこそ、いろいろネタにされてしまうのでしょうけど……ちょっと不満なぼくです。
     実はぼくは、一本の差し毛もない全身黒毛だけで覆われた黒猫です(ちょっと自慢)。兄弟のなかには、お腹や脚の先や耳に、少しだけ白毛が混じっているのもいて、よく羨ましがられます。でも、そういう差し毛もいいアクセントになっていて、それはそれで可愛いなと思うんですけどねえ。本人たちは気にしているみたい。
     と、ここまでが枕で、話は本題へ。今月号に掲載の澤村伊智さんの「宮本くんの手」は僕の兄弟の差し毛のように、多くの人たちの体にあるほんの些細な違いや異変が発端となります。怪我で一度取れてしまった爪が生えかわっても変形していたり、一本だけ永久歯が生えなかったり、怪我を負った膝は完治しているのに雨が降る前に必ず疼いたり……そう、存在すら忘れてしまうほどの体の小さな異変は誰にでもあること。
     登場人物の宮本くんの場合、あるとき急に手の皮が剥けていくという異変を抱えています。皮が剥けて血がにじむほどの痛さを伴うものですが、宮本くんの場合、その原因が我々の想像するのとはまるで違うところにあると信じ込んでいるのです。その結果、宮本くんがとった行動とは……。
     日常のなかにあるほんの些細なでき事が、染みのように徐々に広がって日常を侵食していく恐怖、読んでいて後ろを振り向いて確認したくなるような物語を得意とする澤村伊智さん。今回も期待を裏切らない恐怖譚です!
     今朝も出勤の準備で、鏡でチェックしていたぼく。ふと見ると耳と耳の間の毛に白く光るものが……げっ! 白髪!? なんでだ? ぼくはまだまだ白髪の生える年齢じゃないのに。ストレスか!? そうだストレスに違いない。ストレスの元凶といえば……編集長……お前だっ!!

    澤村伊智さんの「宮本くんの手」は、ジャーロVol.63に掲載中です。

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No.62表紙画像
Vol.62新連載作品2017年12月22日発売

  • イラスト・ひらいたかこ

    〈幻燈小劇場〉「おじさんのトランク」

    芦辺 拓

     あなたの親戚に「不思議なおじさん」はいませんか? 
    別に「おばさん」でもいいのですが、謎に満ちた不思議な存在という意味で記憶に残るのは、なぜかおじさんのほうが多いようです。
    自分の父親が家の外で何をして、どう働いているのか、子どもでもなんとなく理解しています。家にいるときのダラッと寝ている父親の姿は、多少の鬱陶しさと共によく覚えてもいます。
    でも、たまに親戚が一堂に会する場のなかに、普段何をやっているのかまるで分からない「おじさん」はいませんでしたか?(大人たちは当然知っていたのでしょうけど)
    ぼくの記憶の中にも、生活感がないというか日常が見えないというか、ふわっとした存在の「おじさん」がいました。そもそも、そのおじさんとどれくらいの血縁関係なのかさえ定かではない、とりあえず「おじざん」と呼ぶしかない存在。
    そんな不思議なおじさんは案外子どもに優しかったりして、大人に混じって退屈している子どもたちにいろいろな街を探索したときの話をしてくれたり、そのとき持ち帰った戦利品(ただの枝だったり、何かの紐の端っこだったり)を手に入れるまでの冒険譚を聞かせてくれたり。そんな話を、ぼくたち子どもは目を輝かせて聞いていました。でも、おじさんが本当はどこで何をしているのか、やっぱり知らない。

    ――あのおじさんは、いったい何だったのだろう?
    芦辺拓さんが62号より連載を始めた〈幻燈小劇場〉は、そんな不思議なおじさんの、謎の人生を辿っていく物語です。
    ある劇場に長年出演している老俳優の「私」に、ある日プロデューサーが話を持ちかけます。「企画・演出・主演……何もかも自分の思い通りにした舞台をやってみないか?」と。
    ただし、そのための条件が一つあるのです。老俳優はかつてプロデューサーに「おじさんに聞いた話」をしていたのですが、プロデューサーは「その話をふくらませれば面白い芝居になる」と感じていたのです。しかし老俳優は、実際のところ「おじさん」のことをよく知らない。そこでプロデューサーはさらに畳みかけます。「それなら、あんた自身が調べて歩くんだな」。
    ということで、老俳優は自分で思い通りに作ることができる主演舞台のため、「おじさん」の思い出と足跡を辿り始めます。まず最初の手がかりは、使い込まれて傷だらけの革張りのトランク。そこから「おじさんの人生を辿る旅」が始まります!

    芦辺さんはこれまでも光文社より、幻想怪奇の魅力を(おう)(いつ)させた本を刊行されています。
    古書(しゅう)(しゅう)()かれた人間が目眩(めくるめ)く悪夢へと引きずり込まれ、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験をしていく『奇譚を売る店』。
    支配者に(いん)(ぺい)された楽譜、死者が道連れにした楽譜、呪われた楽曲の楽譜……依頼があれば古今東西の散逸した譜面を、どんなものでも必ず見つけ出す楽譜探索人を描いた『楽譜と旅する男』。
    〈幻燈小劇場〉はそれら「幻想奇譚」シリーズに連なる連載です。
    芦辺さんと一緒に、どうぞ「おじさん」の過去を遡る旅に出かけてください。

    芦辺 拓さんの〈幻燈小劇場〉は、ジャーロVol.62から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・かわいち ともこ

    「そのナイフでは殺せない」

    森川智喜

     昔から人間たちは「強大な力を秘めた道具」にとても魅力を感じてきたようです。彼らが生み出した数々の物語に、その道具への憧れが込められています。
     古くはランプを(こす)った者の願いを叶えてくれる「アラジンと魔法のランプ」があり、20世紀初頭にも三つの願いを叶えてくれる「猿の手」をジェイコブズが書き、少し前では名前を書いた人間を死なせることができるという死神のノート「デスノート」を描いた漫画『DEATH NOTE』とか。
     しかし一方で、その道具を使いこなすことの難しさも描いています。「猿の手」では願いが叶うために高い代償を支払わなくてはならず、「アラジンの魔法のランプ」と『DEATH NOTE』では、道具の使用において細かなルール・制約があります。
     ディズニー版『アラジン』では、ランプの精のジーニーにより、「殺生」「恋愛成就」「死者を生き返らせる」「叶える願いの数を増やす」「願いを取り消す」の五つの願いは叶えることができないとされます(あー、面倒くさい)。
    『DEATH NOTE』にいたっては、それこそ数え切れないほどのルールが設定されています(後からどんどん追加されたし)。
     おそらく、どうやったら道具(もしくは道具の背後にいる、悪魔など力を司るもの)の裏をかけるか、人間が試行錯誤を繰り返してきた、ある種の論理ゲームの結果、ルールもどんどん強化されていったのでしょうね。
     確かに三つの願いの最後で「叶えられる願いを百個に増やして」などという願いが叶ってしまったら、お話になりません。
     しかし人間自体に能力が無い以上、裏をかこうとするのも致し方ないことかもしれません。

     62号より「そのナイフでは殺せない」の連載が始まった森川智喜さん。これまでも「なんでも教えてくれる不思議な鏡」や、18世紀末の“侍の国”に現れた光る円盤から出てきた不思議な道具(いわば現代の科学捜査の道具)などを小説世界に巧みに取り入れ、ルール・約束事をきちんと確立した特殊世界設定のミステリーを得意とされてきました。
     そして今回登場するのは「ナイフ」。主人公の大学生・(しち)(さわ)は、海外旅行で行ったフィレンツェ郊外の蚤の市で、あるナイフを手に入れます。大きな刃で、柄にドクロと心臓の彫刻が施されたそのナイフには、実はとてつもない力が宿っていたのです。
     その力の源である宿り主と会い、ナイフの能力を知っていくことで、七沢は現実世界にいながらにして異世界の力を手に入れることになります。
     さて、そのナイフの宿り主とは? ナイフの能力とは? そしてその力の行使に設定されたルールとは?
     七沢が一歩踏み出したことで、読者の皆さんの前に魅力的な森川ワールドが展開されます!

     人間とは違い、ぼくたち猫(というか先輩猫たち)には、もともと大きな力が秘められています(そう教わりました)。
    “A cat has nine lives. ”(猫に九生あり/猫は九つの命を持つ)と言われるように、ぼくたちの命は九つもあって、死んでも何度でも生き返るのです!(ちょっと怖いけど)
     かつて中世ヨーロッパでは、先輩の猫たちは魔女の使い魔であるとみなされていましたしね。能力を秘めた道具がなくても問題ないのです。
     でも……これは内緒なのですが……「猫は九つの命を持つ」と言われる本当の理由は、ぼくたち猫に「家出」の習性があり、何日も戻ってこずもう死んでしまったのだろうと人間たちが思ったころにひょっこり帰ってくるので、「生き返った猫が戻ってきた」と思われたことにあるとか……。
     そういえば、ぼくも無性に家出をしたくなるときがあります。特に春が訪れると……。

    森川智喜さんの「そのナイフでは殺せない」は、ジャーロVol.62に掲載中です。

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  • イラスト・和田聡美

    「殺人犯 対 殺人鬼」

    早坂 吝

     お隣の編集部のおじさん編集者が、独り言のように言いました。「2020年が楽しみだなぁ」。
     その声が耳に入ってしまったぼくが「東京五輪ですね」とお愛想で話しかけてしまうと、
    「なに言ってんの? お前分かってないね。ハリウッド版の『ゴジラ対キングコング』が2020年に公開されるの! ゴジラ史上、俺のもっとも好きな日本オリジナル『キングコング対ゴジラ』がリメイクされるの! あっ、オリジナルのタイトルでは「ゴジラ」が後に入るんだからね。なんと1962年以来の2大怪獣の対決だよ、この重大性が分かる?」
     しまった、面倒くさいツボに嵌まってしまったみたい。「いえ、まったく分かりません。だいたい1962年は先輩も生まれてなかったのでは?」とは口にできないので、「はあ……なるほど」と引き気味に答えていると、おじさん編集者の語りはまだまだ続いて……。
    「やっぱりゴジラシリーズは“対決”にこそ妙味があるのよ。対アンギラス、対モスラの初期作品がそうだし、平成ゴジラシリーズは別名“vsシリーズ”と呼ばれているし、ミレニアムシリーズだって事実上“対決”ものだと思うのよ、俺は」
     いや、まったく付いていけません、先輩。
    「“対決=vs”は本来、絶対的な善=正義の味方と絶対的な悪との闘いが王道だと思うんだ。東宝特撮では『サンダ対ガイラ』がそれに近いかな。アランはどう思う」
    「はあ……そうなんですか……(知らないって)」
    「だがな、正義もなにもない、人間の敵同士、悪同士の“対決”も、これがまた結構魅力的だと思わない?」
    「はあ……ですよね……(だから知らないって)」
    「ゴジラからは外れるけど『フレディvsジェイソン』なんてのもそうじゃない。あと、『エイリアンvsプレデター』もあったな。そうそう、近いところでは『貞子vs伽椰子』は驚きの設定だよな。まてよ、『バットマンvsスーパーマン』はどう捉えればいいんだ?……そういえば……」
     ますます訳の分からない独り言を続ける先輩のそばを、ぼくはそっと離れたのでした。

     しかし、今号から連載が始まる早坂吝さんの「殺人犯 対 殺人鬼」を読んで、先輩の言っていた「悪同士の“対決”も魅力的」という言葉の意味が分かってきました。
     外から閉ざされた場所で、ある人物が復讐のために殺人を犯そうとしていた。人殺しが悪いことだとは分かっている。しかし、この相手は絶対に許せないことをした。自らの手で復讐を遂げずにはいられない。そしてその人物が殺すべき相手の元に辿り着いたとき、その相手はすでに殺されていた。それも残虐過ぎるほどの残虐さで! もしかすると、ここには猟奇的な殺人鬼が紛れ込んでいるのか? そして自分の先を越して殺人を成し遂げてしまったのか?
     殺しを目的とした二人の人間が、偶然にも同じ閉鎖空間で、同じ相手を殺そうと思ったら……という、これはミステリーファンにはたまらない設定ではありませんか。
     殺人犯と殺人鬼の“ライバル同士”が、相手より先に殺人を遂行しようとする、究極の対決。結末がどうなるのか、連載を追いかけてください!

    早坂 吝さんの「殺人犯 対 殺人鬼」は、ジャーロVol.62に掲載中です。

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No.61表紙画像
Vol.61新連載作品2017年9月22日発売

  • イラスト・佐久間真人

    〈和菓子のアン〉「甘い世界(前編)」

    坂木 司

     先日、「ジャーロ」編集部と同じフロアにいる先輩女性編集者がデパ地下について熱く語っていました――。
    「デパ地下っていうのは、そこは行けば必ず何かが見つかる魔法の場所なの。エスカレーターを降りる途中から目に飛び込んでくる溢れんばかりの色彩と、食欲を刺激してやまない魅惑の香り! 試食もできるし、自分へのご褒美のスイーツ探しも楽しい。仕事帰りに歩き回るだけで幸せになれて、もはや行くこと自体が目的となる街のテーマパークね!」
     なんでそれほどのめり込めるのか、僕には理解しがたいです。いつもより豪華なキャットフードが出てきたときみたいな幸せを感じるのかな。だとしたら、なんとなく分かるけど……。
     でも先輩は、そんなデパ地下においても和菓子屋さんが集まるエリアはどこか雰囲気が違うとも言っています。老舗の路面店よりは親しみやすく気軽に購入できるけど、どこか凛とした清々しい空気が漂っている。楽しいだけでなく、和菓子を買うだけで、なんだかちゃんとした自分になれるのだとか。
    「ちゃんとした自分になれる」――それが「和」のもつ佇まいなのでしょうか。
     そんなデパ地下の和菓子店「みつ屋」が舞台となる人気シリーズ「和菓子のアン」。『和菓子のアン』『アンと青春』に続いて、ついに61号より第3弾の連載が始まりました! その主要登場人物を見るだけで、ただものではない面白さが感じられます。
     高校を卒業して、進学も就職も決められないまま「みつ屋」でアルバイトをすることにした主人公の梅本杏子うめもときょうこ、通称”アンちゃん”。食べることが大好きな彼女はアルバイトし始めのころ身長150センチ、体重57キロと、ちょっとぽっちゃりめ。その体型のコンプレックスから男性と話すのが苦手だったりします。「きもちいい!」とみんなにほっぺたをつままれながら頑張る仕事を通じて、和菓子の奥深さを学んでいきます。
     「みつ屋」の店長・椿つばきはるかは、仕事のできる美女。客が選んだ和菓子から、その人の悩みや購入目的を推理する知識と頭脳をもっています。でも、その中身は株やギャンブルが趣味で、私服のセンスは最悪、ビールと煙草が好きな「おっさん」なのでした。
     立花早太郎たちばなそうたろうは、和菓子職人を目指す「みつ屋」社員。高身長、イケメンで、豊富な和菓子の知識を駆使した丁寧な接客。彼から購入したがる客も多いのですが、その中身はやはり別人のようで、かわいい物や恋バナにキャーキャー盛り上がってしまう「超乙女系男子」なのです。
     そしてアンちゃんと同じアルバイトの桜井さん。彼女は普通の女子大生かと思いきや、元ヤンキー。無茶な要求をする客に凄みをきかせた応対をするなど、ときどきヤンキー時代の地が出てしまいます。
     というように、風変わりな人ばかりが集まる「みつ屋」で働くアンちゃんも、今回ついに二十歳を迎えます。大人になったアンちゃんは和菓子にまつわるどんな事件に巻き込まれるのか。もちろん、美味しい和菓子の蘊蓄うんちくもたっぷり。甘党の方はデパ地下に行って和菓子を買って帰りたくなること間違いなしです!

    坂木 司さんの〈和菓子のアン〉シリーズの本作は、ジャーロVol.61から連載が始まりました。最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・佐久間真人

    〈銀幕のメッセージ〉
    「帝国のゴジラ」

    鯨統一郎

     脳を働かせたいと思ったとき、何を飲みますか? やっぱりカフェインの入ったコーヒーやお茶で、という人が多いでしょうか。水を飲んで体をきれいにしてこそ脳は働くのよ、という人もいるようです。なかにはカルピスが記憶力・集中力にいいという説もあるようで、乳酸菌飲料に入っているペプチドが効くとか……(真偽は不明)。
     では、お酒を飲むのはどうでしょう? アルコールは認知能力の低下を防ぐという研究報告もありますが……って、編集長、酒のプラス面の話になると急に前のめりにならないでくれませんか(顔が近いって)。じゃあ逆に、毎日お酒を飲むと脳の萎縮が早く進むという話もありますよ……あー、両耳塞いで聞こえない聞こえないしてるし。
     飲んべえの編集長は放っておいて、61号から連載がスタートした、鯨統一郎さんの人気キャラクター「桜川東子さくらがわはるこ」が登場する〈銀幕のメッセージ〉。今回で第7弾となる人気シリーズです。
     マスターの島が営むバー〈森へ抜ける道〉に今宵も集まるのは、常連客の山内と工藤(山内のヤ、工藤のクド、島のシと3人の名前の頭文字をとってヤクドシトリオと呼ばれてます)。元は客だったのがバーでアルバイトをすることになったOLの板東ばんどういるか。そして、やはり常連客の桜川東子。
     東子はメルヘンを専攻する美貌の大学院生で、とてつもない推理力の持ち主。さらには酒にめっぽう強く、飲めば飲むほど彼女の頭脳は冴え渡ります。
     元刑事でいまは私立探偵をやっている工藤がいつもバーに未解決事件を持ち込み、みんなで「真相」へ辿り着くべく議論するのですが、日本酒やウイスキー、ワインやビールなどあらゆる酒を飲みながら、最後にすべての謎を解き明かすのが桜川東子の頭脳なのです。東子に限っては、酒は脳を活性化させているようですね。
     そして童話、民話、ギリシャ神話、歌舞伎、オペラ、宝塚といったテーマが、シリーズごとに謎に絡んでくるという、もうひとつの楽しみもあります。今回は〈銀幕のメッセージ〉のタイトルの通り、映画の蘊蓄と事件が絡みますので、お酒を飲みながら映画の話をするのがお好きな方にはぴったりのシリーズです。
     さて、第1話「帝国のゴジラ」では、派閥抗争が繰り広げられる会社で社長が殺害された事件が持ち込まれます。推理のお供の酒はテキーラ。「スター・ウォーズ」や「ゴジラ」などの映画話を絡ませて謎解きは進みますが、今回新たなキャラクターも登場します。千木良悟ちぎらさとると名乗る男性客は、実際の事件の真相を推理して外れたことがないと豪語します。はたして、東子と千木良の推理合戦の結末は!? ぜひグラスを片手にお読みください。
     あれっ、編集長はどこにいったの? 今日はプレミアムフライデーだから、もう飲みにいった!? まったく、都合のいいことだけはちゃんと取り入れるんだから……。まあ、いいか。僕も編集部でちょっと一杯やっちゃおうっと。僕の好物の「鶏ささみの茹で汁」、これがたまらなく旨いんだなあ。

    鯨統一郎さんの〈銀幕のメッセージ〉は、ジャーロVol.61から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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No.60表紙画像
Vol.60新連載作品2017年6月13日発売

  • イラスト・田尻真弓

    〈女神の苦笑〉「虹」

    宮部みゆき

     人間界には運命を司る女神がいます。ギリシア神話なら三人の女神たちですね。この三女神は、あなたたち一人一人に「運命の糸」を割り当て、紡ぎ、そして最後に断ち切るそうです(断ち切る……怖っ! 女神三人の打ち合わせはきっと「この人間、どーしちゃう?」などと、けたたましいものでしょうね……)。この「運命の糸」により劇的に変わってしまった人生を、人は偶然に翻弄されたと感じ「あー、運命の女神よ、あなたはなぜ無情にもこんな意地悪をなさるのか」と恨んだりします。
     まあ大抵の恨み言は彼女たちも「で?」と鼻で笑うのでしょうけど、ときに糸がこんがらがったのか、想定を上回ってあまりにも偶然が重なってしまい、女神たちが「ちょっと待ってよ、それ私たち知らないし。聞いてないし。私たちのせいじゃないからね」と慌てるような事態が起きたりします。そう、起きるのです。
     60号より始まった宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズは、さすがの運命の女神たちも苦笑するしかないような、あまりもの偶然の積み重なり、連鎖、連結に巻き込まれた人たちの物語です。
     第一話「虹」は、夫とその家族に酷い仕打ちを受け続けてきた女性が息子とともに家を逃げ出し、新たな人生を始めようと母子シェルターの寮に入ります。その寮の共同洗濯機で息子の大切な運動着を洗うたびに、別の入寮者の洗濯物によってなぜか必ず色移りしてしまいます。避けようとしても、必ずそうなってしまうのです。
     でも、この色移りが起きるたびに、母子の人生の転機となるようなできごとが次々と起きてゆき……。はたしてこれはただの偶然!? その先にはどんな未来が待ち受けている!?
     女神さま、責任は問わないから分かっているなら早く先を教えて、と問いたくなるような展開。ページをめくる手が、猫なら肉球が止まらない、まさにページターナーの一編です!

    宮部みゆきさんの〈女神の苦笑〉は、ジャーロVol.60から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・景山 徹

    「屍たちの昏い宴」

    笠井 潔

     矢吹駆(ヤブキ・カケル)。連続殺人事件の謎を見事に解きながらも、普通に考える「名探偵」のイメージがこれほど当てはまらない主人公はいないかもしれません。
     その容姿は、肩まで伸びるウエーブのかかった黒髪、切れ長の大きな目、整った鼻筋、少し厚めの唇で「ツタンカーメンを思わせる東洋の貴公子のような」と形容されます。ちょっと濃いめのイケメンでしょうか。もっとも本人はそんなこと微塵も考えていないようですが。
     問題はその推理方法。矢吹駆は「現象学的推理」という方法を用います。たとえば連続殺人が起こったとして、駆は事件を解決しようとはせず「一連の現象」として観察し捉えようとします(もう、この時点でよく分からなくなってきますが)。そして事件が終了した時点で「本質的直観」に基づいて真相を解き明かしてしまうのです(さらに分からなくなってしまいます!)。
     ひとつの出来事(たとえば殺人)があれば、それについての論理的に妥当といえる結論は無数にある。その無数の結論のなかから「唯一の真理」を導くのが「本質的直観」である(by駆、まとめbyアラン)――いやもう、すごい! かっこいい!(ミステリー修行中の身ゆえ、こんな反応しかできない自分が情けないっス! 編集長、すみません)
     そしてパリなどヨーロッパを中心とした舞台で、駆を事件へと誘うのが、とても行動的な女性ナディア・モガール。父親はパリ司法警察の警視ですから、かなり無茶なこともやっちゃいます。
     もう一人の重要人物が、様々な場所で起きる事件の裏に常に存在し、闇から犯罪者を操る黒幕ニコライ・イリイチ。あらゆる手段を用い、テロリズムで世界を破滅に追い込もうとする駆の宿敵です。(暗がりから狙うところだけは、なんとなく親近感を覚えたりします)
     三者の関係性だけでいえば、駆がホームズだとすると、ナディアがワトソン、イリイチがモリアーティ教授といったところでしょうか。はい、これは勉強しました。
     この三人を軸に書かれてきた「矢吹駆シリーズ」は、『バイバイ、エンジェル』を第一作として、番外編的な作品も含めると十作を越えるシリーズとなっていますが(単行本未刊行のものも含む)、今回の『屍たちの昏い夜』でついにシリーズ最終作となります!
     どのような殺人事件が待ち受けているのか。駆とイリイチの対決の行方は? ナディアとの関係は? シリーズを追いかけてきた方はもちろん、この作品で初めて読む方も、巻き起こる事件を楽しめること間違いなしです。
     ちなみにぼくは魚がたくさんがあっても、いちばん美味しい一匹を本質的直観(におい)で選べますよ!

    笠井 潔さんの〈矢吹駆〉シリーズの本作は、ジャーロVol.60から連載が始まりました。最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・チカツタケオ

    〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉
    「言わなくても分かっている」

    前川 裕

    『クリーピー』(2012年2月刊)で第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビューした前川裕さん。同作品はクライムサスペンスの傑作です。東洛大学で犯罪心理学を教える大学教授の高倉は、友人の警視庁捜査一課の警部・野上の依頼で、8年前の日野市一家三人行方不明事件の捜査に協力していく。やがて高倉は得体の知れない隣人など事件の背後にある闇に気がつき、そのなかへと踏み込んでいくが……というストーリー。
     タイトルの「クリーピー」は「(恐怖のために)ぞっと身の毛がよだつような;気味の悪い」という意味の英語です。初めて知りました。読み進めていくうちに人間の心の暗部に引き込まれていくようで、まさにぞっと身の毛がよだつデビュー作です(ちなみにぼくの場合、ぞっとすると背中の毛が逆立ちます)。
     さらに『クリーピー』は黒沢清監督により映画化(2016年6月公開)され、「2016年 第90回キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画部門8位にランクインしました(ちなみにランキング1位は『この世界の片隅に』、2位が『シン・ゴジラ』と邦画のあたり年でしたねえ)。また、続編ともいえる長編『クリーピー・スクリーチ』も刊行され、「クリーピー」ワールドはさらなる広がりを見せています。
     そして「クリーピー」ワールドの次なる一手は、60号より連載がスタートした「犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル」シリーズ。今度は高倉を主人公とした連作短編です。
     過去のあらゆる犯罪(特に猟奇的殺人事件)に精通し、同時に犯人の心の襞に分け入ることもできる高倉。その能力をフルに活用し、ときに事件を未然に防ぎ、ときに犯人を罠にかけていきます。
     ちなみに映画版で高倉役を務めたのは西島秀俊さん。そのため、ぼくは小説でも高倉は西島さんとしか思えなくなってしまいました。この際ですから、皆さんも西島さんをイメージしてかっこいい高倉を楽しんでください。さらにちなみに、映画版の高倉の妻・康子役は竹内結子さんでした。イケメンと美女。だめだ、もう康子も竹内さんとしか思えない……。

    前川 裕さんの〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉は、ジャーロVol.60から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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No.59表紙画像
Vol.59新連載作品2017年3月31日発売

  • イラスト・おとないちあき

    〈エミールと探偵たち白書〉
    「アリバイのワイン」

    西澤保彦

     我が編集部のまわりの女性たち、「疲れた時に甘いものを食べると頭が働く」とかよく言っているのですが、本当でしょうか? 彼女たちは毎日のように「やばーい、脳みそにちょっと糖分入れなきゃ」とチョコレートの箱を開けるのですが……。
     雑居ビルの四階にひっそりと佇む〈ブック・ステアリング〉は、珍しくて懐かしい書籍の山が内装を埋め尽くす一大ブック・ギャラリーでもあります。「ぼく」こと柚木崎渓(ゆきさきけい)は、このカフェの看板メニューのチョコレートドーナッツをこよなく愛し足繁く通う、迫扇さこおおぎ学園高等部の学生。同級生の本好き美少女、エミールこと日柳永美ひさなぎえみもこの店の常連で、いつも一心不乱に本を読み耽っています。
     あるとき店長の梶本が「ちょっとおもしろいことがあってね」と語り始めた事件。それは歴代の夫三人とその愛人が連続して殺害されている女に完璧と思えるアリバイがあり、そのアリバイを梶本が証明しているというものでした。
     かつて梶本は約十二年間にわたって、ほぼ毎日〈ユモレスク〉という店のモーニングに通っていましたが、事件の被疑者・仲田有江も歴代の夫と愛人が殺された日の朝に〈ユモレスク〉でワインを飲んでおり、そのうちの二回は梶本が目撃者になっているというのです! 読書に埋没していたはずのエミールも、どうやら店長の話に興味をもったようで……。
     長身で大食い、エキゾチックな顔立ちエミールと、華奢で控え目男子のユキサキ。店長の美味しい料理を食べながら二人が巡らす推理とは!?
     チョコの箱を開けた編集部の女性たち、観察しているといつの間にか箱は空っぽに。それって「ちょっと」なの?……って、すみません、鼻にチョコを押しつけないでくれますか! ぼく、チョコは食べませんから!

    西澤保彦さんの〈エミールと探偵たち白書〉は、ジャーロVol.59から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・友風子

    〈巫女の推理に御利益あり〉
    「境内ではお静かに」

    天袮 涼

     巫女と聞いただけで、我が編集長はいつになく落ち着かなくなります。なぜでしょう……。
     天袮涼さんが描く巫女探偵・久遠雫<くおんしずくは超絶美人、白衣に緋袴(巫女ですから当然ですが)、腰まである黒髪を一本に束ね、背筋を真っ直ぐ伸ばした立ち居は凜々しく、参拝者の前では微笑みを絶やしません。そんな雫の表情は参拝者がいなくなると一変、双眸は氷塊のようになり、誰が呼んだかあだ名は「氷の巫女」。
     編集長、この目が怖くて落ち着かないんですか?
     雫がお務めするのは横浜で源義経を祀る源神社。そしてそこに住み込みで働くことになったのが坂本壮馬さかもとそうま。実は壮馬の兄・栄達えいたつは源神社の一人娘の婿となり、神職に就いていたのです。大学をやめてふらふらしていた壮馬を栄達が招いたというわけ。壮馬の教育係は、十七歳と年下ながら神社では先輩の雫。彼女の氷の視線に睨まれながら日々奮闘する壮馬でしたが……。
     あるとき、源神社が管轄する阿波野神社で心霊現象が起きているとネット上で話題となり、近隣住民から夜中に若者が集まって迷惑しているとクレームが入ります。雫と壮馬が心霊現象を解明する役目を担いますが、雫の鋭い視線は心霊現象の奥に別の問題が潜んでいることに気づき……。
     クールビューティにして冷徹な推理力の持ち主・雫と、なにをやってもうまくいかない男・壮馬のコンビが、神社に巻き起こる謎を解いていくシリーズ。神社の蘊蓄もたっぷり詰まっています!
     ちなみに神社というと「お稲荷様=狐=イヌ科」を思い浮かべる人が多いのでしょうね。でも、猫を祀った神社も全国には結構あるんですよ。たとえば東京では浅草の今戸神社が有名です。招き猫発祥の地といわれていますし、ぼくの白毛の仲間も住んでいて、この白猫を見かけたら幸運が訪れるとか。そうそう最近ではなぜか縁結びに神様にもなってるようで。
     それにしても編集長、なんで巫女と聞くとそわそわするんですか?

    天祢 涼さんの〈巫女の推理に御利益あり〉は、ジャーロVol.59から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・宮崎ひかり

    「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」

    青柳碧人

     臓器移植をした人の嗜好や性格が以前とは変わってしまう「記憶転移」という話があります。もちろん科学的にはあくまで未解明の現象ですが、小説や映画、マンガなどでこのテーマは繰り返し扱われてきました。脳ではなく、臓器に記憶が宿る……どこまでも不思議な話です。
     さらに話を進めて、もし物に記憶が残るとしたら……。
     「私」こと、篠垣早紀しのがきさきは、三年間付き合った彼氏に突然別れを告げられます。降りたこともない駅で降り、路地裏の飲み屋街の小さな店をはしごし泥酔する早紀。タクシーを拾おうとしてふと目にとまったバー《オン・ザ・キャメル》に、つい入ってしまいます(編集長もよく「もう帰る」と言いつつ居酒屋に引っかかってますねえ)。
     そのバーで出会ったホストのような格好の男は、早紀のスマホを借り受けると店内のラクダの置物にまたがり眠ってしまいます(まさにオン・ザ・キャメル)。そして三十分後に目覚めた男は、その日、早紀が行った飲み屋、その店のメニューから他の客の会話まですべて正確に言い当てるのです!
     「俺は今、君のスマホになっていたんだ」。夢の中で早紀のスマホになった男は、彼氏からの別れの言葉を聞き、はしご酒のすべてをダイジェスト版で見てきたと語ります。
     「どういうわけか、俺にはそんな変な力が備わってしまった。どんな物でもいいってわけじゃないんだ。人に大事にされている物、近い過去、人に触れられていた物でなければならない。夢の中で、ただ無抵抗な物になり、映像を見せられる」
     その男との出会いが、早紀にとって新しい扉を開くことに。なぜなら早紀自身にもかつて同じような体験をした記憶があったから……。
     青柳碧人さんの「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」は、こんな大胆な設定のうえに謎を提示してくる長編ミステリーです。そもそも自分の“記憶”は本当にあったことなのか、100パーセントの自信をもっていえる人はいないは。そんな心の隙に、するりと入り込んでくる小説なのです。一度入ってきたら、青柳ワールドはどこまでも深く潜り込んできますので、お気をつけください。
     そういえばぼくは、ときどき編集長の顔を忘れてしまうのですが……。ま、いっか。別にあの人は餌をくれるわけじゃないしね。

    青柳碧人さんの「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」は、ジャーロVol.59から連載が始まりました。最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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No.58表紙画像
Vol.58新連載作品2016年11月25日発売

  • イラスト・平澤貴也

    〈隠蔽人類〉
    「隠蔽人類の発見と殺人」

    鳥飼否宇

     2013年11月、南アフリカ共和国の洞窟で骨が発見され、世界中の研究者達を驚かせた新種のヒト属「ホモ・ナレディ」。少なくとも15体分になるといわれる骨は集団埋葬された可能性があり、脳が現代のヒトの三分の一のサイズしかないのに、死を理解する文化を持ち合わせていたのではと議論となっているそうです……というのは実話です。骨の年代がまだ不明で人類の系統樹のどこに入るかはまだ分からず、未だに予断を許さない状況のようですね。
     鳥飼否宇さんが58号より連載を始めた「隠蔽人類」シリーズも、実は似たような状況が展開されています。と言っても人類史のミッシングリンクとなる骨が発見されたのではなく、なんと現代に生き延びている新種の人類が発見されたことから物語は始まるのです!
     カヌーでアマゾン川の全支流を単身で漕破するという冒険を敢行中に、ペルーの川で濁流に呑まれて命を落としたアメリカの冒険家。彼はタブレット端末に詳細な日記と写真を残していたましたが、彼の妻がそこに驚くべき記述を見つけるのです。アマゾン川のとある支流のさらに枝分かれ、小さな流れの先に総勢五十人ほどでひっそりと暮らす未接触民族の集落があり、冒険家はその「キズキ族」を「これまでに出会ったどんな民族とも違う」特徴を持っていると記していました。そこで日本の人類学者など五人の調査団が、はるかキズキ族の集落を求めアマゾン川を遡っていきます。目的はキズキ族のDNAサンプルを入手し、新種の人類であることを証明すること。しかし、それぞれの野望が渦巻く調査団はお互いに牽制し合い、そしてついにたどり着いた集落で調査団の一人が何者かに殺されるという事件が起きて……。
     特殊設定や人間以外の生物が関係してくる世界でのミステリーは、鳥飼さんのお得意とするところ。今回も二転三転、毎回どんでん返しが待ち受けていますよ。
     それにしても人間は自分のルーツを辿ることがお好きなようで、ミッシングリンクの発見にはいつも目の色を変えますねえ。
     ぼくたち猫科は遙か太古の昔の「プセウダエルルス」というご先祖様以来、形態はほとんど変わっていませんので落ち着いたものです。あっ、「目の色」は意思に関係なく明かり次第で変わってしまいますけどね。

    鳥飼否宇さんの〈隠蔽人類〉は、ジャーロVol.58から連載が始まりました。最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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  • イラスト・知子

    〈飛んで火に入る三人〉
    「ロウソク邸とむらさきの火」

    森 晶麿

     熊野那智大社や鞍馬の火祭、京都大文字五山送り火や御火焚(おひたき)、北口本宮冨士浅間神社と諏訪神社にも吉田の火祭がありますし、さらには九州地方の鬼火など、日本全国で季節を問わず、いわゆる「火祭り」が行われています。それだけ神霊の送迎や清め、魔よけなど、人間は燃える炎の力を信じているということですね。
     58号より森晶麿さんが連載をスタートした「飛んで火に入る三人」も、まさに燃える炎のパワーをめぐるミステリーです。
     露木洋伍(つゆきようご)、職業は「予現者」(「予言者」ではなく「予現者」)。見た目は美青年ながら言動は軽薄。彼は燃え上がる炎のイメージを「観る」ことで、火災が起きる現場を言い当てることができます。
     凪田緒ノ帆(なぎたおのほ)、職業は現象学者。かつて学会で外出していた日に自宅の火災によって夫を失ってしまいました。
     海老野ホムラ(えびのほむら)、職業は消防士。かつてアフガニスタンを旅行中に正体不明のテロリスト集団に襲われ、恋人のメグミを拉致されます。身体を拘束されたホムラは柵で囲われ火を放たれましたが、火がロープを焼き切り九死に一生を得るという、悲惨な経験をしました。
     この三人を結びつけるのは「炎」。露木は、最近起こった火災の被害者がいずれもスマホの画面を同じ女性の画像にしていることに気づきます。その画像はメグミによく似た女性で、さらに調べると、画像から〈貴婦jin俱楽部〉という出会い系サイトにたどり着くのです。はたしてメグミは生存しているのか? 炎に導かれるように、三人は真相を求めて旅に出ますが……。
     燃え上がる炎には人を落ち着かせる力もありますが(暖炉の前など、ぼくも大好き)、ときに人を狂わせる力もあるようですね。本シリーズは炎のよって運命が変わってしまった人たちを巡るミステリーです。
     ちなみにぼくの一族にも「猫股(又)の火」なる火の玉と化す怪猫伝説が残っていますが、そうなるには尻尾が二股に分かれるほど長生きしないとね。

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  • イラスト・YOUCHAN

    〈珈琲城のキネマと事件〉
    「狼が殺した」

    井上雅彦

     シアトル・スタイルのカフェでそれなりに美味しいコーヒーを飲むのは気楽でいい。スマホをいじるのにはちょうどいいし。でも黄金期のミステリーを再読するなら、シアトル系はちょっとね。やはり古き良き昭和の薫り漂う喫茶店に文庫本を持って行きたいものだ……とは編集長の言。編集長、その後もなにやら遠い目をして、昔通ったお茶の水のジャズ喫茶の女子大生店員がかわいくて、いつもカウンターに座って彼女のことを……なんてぶつぶつ言ってたが、中身がよく分からない。ちょうど日が差して眠気を誘う暖かさだったし。
     でも井上雅彦さんの「珈琲城とキネマと事件」を読んで、編集長の昔話……いやミステリーの読み方の指導がちょっと分かった気がしました。
     ホテルの一室で、男性の変死体が発見されます。喉は鋭い刃物で執拗に剔ぐられたかのようで、頭蓋骨や頸部など複数の骨折も見られる。犯人が逃走できたのは床から8メートルの高さにある天窓のみ。さらに外には、雪のうえにイヌ科とおぼしき大型動物の足跡が……。被害者はかつて、絶滅したはずのエゾオオカミの生存を検証する番組を制作したプロデューサー。犯人は狼男なのか……。
     刑事の春夫は、同窓生で新聞社文化部の記者・秋乃に紹介され、ある喫茶店を訪れます。鬱蒼と蔦の絡まる西洋館の〔喫茶・薔薇の蕾〕。その扉を開けると、闇の中に珈琲を焙煎する深い芳香が。聴こえてくるのは古楽の響き。ここは静かな闇と美味なる珈琲――そしてなによりも謎解きの好きな常連たちが集う一種の秘密クラブだったのです。
     ゲストは常連たちの前で、謎に溢れる自らの体験を話します。すると、それぞれの得意分野のニックネームがついた常連たちが、次々の推理を披露をするのがお約束。その日も春男の語る「狼男殺人事件」に、〈民俗学者〉、〈記号論〉、〈グッズ屋〉、〈怪奇俳優〉たちがそれぞれ論理的な解答を語り始めます。最後は〈映写技師〉が上映する古き良き名画のなかに謎を解く鍵が……。
     これまで珈琲の濃い香りはぼくの鼻にはちょっと強過ぎましたが、この小説を読んで好きになれそうな気がしてきましたよ、編集長。

    井上雅彦さんの〈珈琲城のキネマと事件〉は、ジャーロVol.58から連載が始まりました。一話完結なので読み切り作品としても楽しめますが、最初から読みたい!と思った方は、ぜひこちらからどうぞ。

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