《小説公募》新人発掘プロジェクト
カッパ・ツー

カッパ・ツーとは
2002年より開始されたカッパ・ノベルスの新人発掘プロジェクト「KAPPA-ONE 登竜門」を引き継ぎ、同プロジェクトの出身者である石持浅海(いしもち・あさみ)・東川篤哉(ひがしがわ・とくや)両氏を選考委員に迎えて「ジャーロ」誌上ではじまった公募企画です。本コンテストではあなたの力作をお待ちしています!

 

「カッパ・ツー」第一弾 入選作
『名探偵は噓をつかない』(阿津川辰海・著)
ついに刊行!(2017年6月17日発売)


あらすじ

「ただいまより、本邦初の探偵弾劾裁判を開廷する!」
彼が本当に噓をついていないのか、
それは、死者を含めた関係者の証言によって、あきらかにされる――

 探偵が国家資格となり、警察庁の下部組織・探偵機関の特務探偵士として、知能犯罪・頭脳犯罪の捜査を担当している世界。知識人・人格者・名士として尊敬をあつめる探偵たちのなかにひとり、異質な男がいた。阿久津透(あくつ・とおる)。探偵機関の生みの親にして、伝説的名探偵・阿久津源太郎(あくつ・げんたろう)の息子で、多くの難事件を解決に導いてきた当代きっての論理的知性の持ち主だ。その性格、傲岸不遜にして冷酷非情。妥協を許さず、徹底的に犯人を追い詰める。その苛烈さは、事件にかかわった人びとに無用の軋轢を生み、恨みを買うことも少なくなかった。そんな男に、探偵資格の剝奪さえ検討されかねない重大な疑惑が持ちあがった。それは、彼が証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したというものだった――

※↑クリックすると読めます

  • 書評 「意外性を求める」伝統を受け継ぐ新人の誕生

    円堂都司昭(えんどう・としあき)

     光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」で見出され、刊行が決まった阿津川辰海『名探偵は噓をつかない』をめくり、まず目次をながめて、おおー、となった。「災厄の町」、「斜め屋敷の犯罪」、「鍵孔のない扉」といった章題が並んでいる。それぞれ、エラリー・クイーン、島田荘司(しまだ・そうじ) 、鮎川哲也(あゆかわ・てつや) の有名作から題を借りたわけで、それ以外の章題でも同様の遊びがされている。実際に本文を読んでみると、カー『ユダの窓』、クリスティー『エッジウェア卿の死』などへの言及があり、シャーロック・ホームズのセリフが引用されもする。作中には、鮎川哲也、有栖川有栖(ありすがわ・ありす)が創造した名探偵と同じ姓を持つ、星影美空(ほしかげ・みそら)、火村(ひむら)つかさという人物も登場する。いかにもミステリ好きが書いたミステリ小説なのだ。

     2002~2007年に行われた新人発掘プロジェクト「KAPPA-ONE」で単行本デビューした石持浅海と東川篤哉が、今度は選考委員となった後継プロジェクトが「カッパ・ツー」である。その始動に際して「ジャーロ」2014秋号(52号)に石持・東川対談が掲載され、ミステリ中心でありつつジャンルを限定しなかった「KAPPA-ONE」に対し、「カッパ・ツー」は本格ミステリを対象とする方針が明確に打ち出された。それに対し『名探偵は噓をつかない』は、ジャンルの歴史への敬意やチャレンジ精神を感じさせる目次をはじめ、本格ミステリにまつわるあれこれに淫した作品であり、選考委員の期待に応えたものになっている。

     と思ったのだが、「ジャーロ」2016春号(56号)の「カッパ・ツー」選考対談を読み返すと、石持も東川も最終選考に残った三作のなかでこの作品が最も完成度が低いと評価していた。「けれど、軸になるルールが破綻していない、うまく使っているという点がいちばん評価した理由です」(石持)、「いちばん可能性があるな、という感じがしました」(東川)と、それぞれ選んだ理由を述べていた。

     私は、谷本秀一(たにもと・しゅういち)名義の応募作『名探偵は噓を吐かない~名探偵・阿久津透最後の事件』が改稿された後のゲラ(ただし校了前)を読み、この文章を書いている。ゲラでは、作中世界における裁判の位置づけ、登場人物の設定などが選考対談で触れられていたものとは若干違っているし、アドバイスを受けてかなり書き直したと察せられる。応募当時二十歳だったという新人にしては盛りだくさんなうえ紆余曲折のある物語なので、内容を整理するのは大変だっただろう。そのぶん、かなり面白い作品にしあがっている。

     不可解な謎が論理的に解かれ、意外な真相が明らかになる。そんな本格ミステリの作法に則った小説である。だが、進行する連続殺人事件を名探偵が解決するというような素直な作りではない。『名探偵は噓をつかない』の世界では、探偵が国家資格になっており、警察庁の下部組織・探偵機関の特務探偵士が、知能犯罪の捜査を担当する。彼らは、密室やダイイングメッセージなどという取るに足らぬことで俺たちの事件を奪うのだ、などと刑事にうっとうしがられもするが、一般的には知識人・人格者とみられ尊敬されていた。それなのに探偵機関の創始者・阿久津源太郎(あくつ・げんたろう)の息子・透(とおる)は、難事件を解決する知性を持つ一方、尊大かつ非情な性格で恨みを買っていた。

     阿久津透は、少年時代に密室殺人事件の現場内部にいた被疑者として犯行を自白したが、裁判では一転して無罪を論理的に主張し、別の犯人Xの存在を周囲に納得させた。その後、探偵として活躍し始めたのである。だが、数々の事件捜査において彼が犯人を密かに自殺へ追いやったのではないか、事件関係者のプライバシーをみだりに暴いたのではないか、証拠を捏造したのではないか、連続殺人の次の被害者が誰か知りつつ見殺しにしたのではないか、そしてかつての密室殺人の犯人はやはり彼なのではないかと、多くの嫌疑がかけられ、探偵資格をめぐる弾劾裁判が実施されることになる。名探偵である彼の「僕は自分の見つけた真実に、噓をついたことなんて一度もないよ」という言葉が、本当かどうかが物語の焦点だ。

     これだけでもひねくれた設定になっているが、本作は幽霊、転生という超常現象が存在する世界で話が進む。このため、過去の殺人事件の被害者が裁判に参加するなど状況がいっそう複雑になる。先に話題にした本書の目次には「生ける屍の死」という章題もあった。山口雅也(やまぐち・まさや)の同名小説では、死者がゾンビになって蘇る世界で連続殺人が起きた。ただ、超常現象を作中に持ちこんではいても、なんでもありにはせず、現象をルール化して世界観をぶれさせなかったから本格ミステリとして成功したのだ。『名探偵は噓をつかない』は、そうした先達のありかたを受け継ぎ、この設定ならではの物語展開をみせる。「カッパ・ツー」第一期の原稿募集直前の対談で石持は、「どんな突飛な設定や型破りなものでもいいんですが、その状況にちゃんとルールを作って、そのルールをはみ出さないようにしてほしいですね」と語っていた。若き応募者は、石持の要望にしっかり応えた形だ。

    「KAPPA-ONE」を受け継ぐ「カッパ・ツー」から『名探偵は噓をつかない』が生まれた今年は、新本格三十周年にあたる年でもあった。エドガー・アラン・ポーから始まりカー、クイーン、クリスティーなどで黄金期を迎えた英米の本格ミステリから影響を受け、日本の本格ミステリは育った。江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)や横溝正史(よこみぞ・せいし)など広く知られる存在が現れた後、退潮がいわれる時期もあったが、1987年の綾辻行人(あやつじ・ゆきと)『十角館の殺人』発表以降、このジャンルのルネサンスともいえる新本格ミステリのムーブメントが起こり、再び存在感を示すようになった。歴史を重ねた本格ミステリは、早い時期からトリックの種はつきたといわれつつ、特殊な設定、複数要素の組みあわせ、構成や叙述の工夫などあの手この手で新たな意外性を求めることの繰り返しだった。

     そうしたなかで、名探偵は難事件を解決するヒーローであるだけではなくなっている。探偵が偽の手がかりを与えられ犯人の駒にされるクイーン的な構図は、新本格以降に様々に変奏された。探偵多数がそれぞれ得意技を持ちアイドル・グループのごとくキャラを競う清涼院流水のJDC(日本探偵俱楽部)シリーズ、探偵行為が禁じられたパラレル・ワールドの日本を舞台にした有栖川有栖のソラ(空閑純[そらしず・じゅん])シリーズなど、名探偵という役回りの特異性を誇張したり、皮肉な設定で批評的にとらえたりすることも行われてきた。

     また、先に触れたようにゾンビが歩き回る『生ける屍の死』や、超能力や人格転移、時間のループといったSF的設定を用いた西澤保彦(にしざわ・やすひこ)の一連の作品など、作中に特殊なルールを定めて語られる本格ミステリも多く書かれてきた。阿津川辰海の『名探偵は噓をつかない』は、トリックの種はつきたといわれても、なお意外性を求めるそうした試行錯誤の伝統を受け継いだ最新の作品だ。

     その意味ではマニアックな内容である。ただ、募集直前の選考委員対談で東川は「あと、本格ミステリーだからマニアック、ということではなく、マニアを喜ばせるのは当たり前で、マニアではない人にもどう伝えるか、が大事だと思っています」と語ってもいた。『名探偵は噓をつかない』の場合はどうか。

     阿久津透の助手を務めていたが、彼が刑事である兄を見殺しにしたと考え、裁判で弾劾する側に回る火村つかさ。以前は自身が探偵志望でもあった彼女の名探偵に対する愛憎入り交じった気持ち。死んでしまった火村明(ひむら・あきら)の同じく殺された恋人・水原優子(みずはら・ゆうこ)や妹・つかさへの想い。阿久津透をおぼっちゃんとして扱うまるで執事のような弁護士・瀬川邦彦(せがわ・くにひこ)。変わり者の裁判官・榊遊星(さかき・ゆうせい)。そして、虫のようになにを考えているかわからない不気味さが感じられるとまで表現される名探偵・阿久津透。主要人物は、それぞれ印象的で親しみやすく造形されている。しかも、死者が転生する異常事態が、登場人物のキャラや心情をデフォルメして表現することにもつながり、憎しみや疑いが主調音となる物語にコミカルなテイストを与えている。ミステリのマニアではない人にも伝わる、ライトな語りかたなのだ。

     というわけで「カッパ・ツー」が望んでいた新人が現れた。第一期から上々の滑り出しである。阿津川辰海(あつかわ・たつみ)の今後の活躍に期待したい。

    (「ジャーロ」2017夏号〈60号〉に掲載)

《小説公募》本格ミステリー新人発掘企画
「カッパ・ツー」第二期 作品募集

選考委員:石持浅海、東川篤哉

◎募集要項

【ジャンル】
未発表の本格ミステリーに限る
【応募枚数】
400字詰め換算で250枚から550枚
【締め切り】
2018年7月末日(当日消印有効)。
ただし、応募作品が二十作に達した段階で、その直後のジャーロ誌上で受け付けを締め切る。ジャーロ誌上およびジャーロのホームページでコンテストの途中経過(応募作品の点数と受け付けの継続/停止)を発表する。最終的に受け付けた応募作名はジャーロ65号(2018年9月)に掲載予定。
【発表】
2019年3月 ジャーロ67号誌上(予定)
【宛先】
〒112-8011 東京都文京区音羽1-16-6 光文社ジャーロ編集部「カッパ・ツー」係
☆入選作は光文社文芸図書編集部より刊行されます。

◎細項
・表紙に、タイトル、氏名(筆名の場合は本名も)、年齢、職業、郵便番号、住所、電話番号、e-mailのアドレス、400字詰め換算の原稿枚数を明記のこと。
・応募原稿はワープロ原稿のみ、受け付ける。A4横判に1行25字、40行で、マス目のない縦書きで印字し、右肩をダブルクリップでとめ(糊付け、ホッチキスは不可)、通しナンバーを振ること。
・応募原稿は返却しない。
・選考に関する問い合わせは受け付けない。
・受賞作の著作権は本人に帰属する。
・受賞作の複製権(出版権を含む)、公衆送信権、および映像化、コミック化、舞台化等の二次利用の権利は光文社に帰属する。
・二重投稿、既発表作は失格とする。
☆応募に際して書類に記載された個人情報は、選考資料・入選者発表および入選者への通知にのみ使用し、他は選考終了後、直ちに廃棄します。