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貝谷郁子氏によるコラム「女探偵好みの一杯」は「ジャーロ」誌上で二〇〇五年夏号(第20号)より始まり、十四年にわたる連載を経て、前号の第68号で第48回に至った。この度、これまでの48編を整理改稿し、新たな書き下ろしを加えて、電子書籍『女主人公の50冊 一杯のお酒から読むミステリー』として刊行することとなった。
  そこで刊行を記念して、貝谷氏にこれまでの連載を振り返りつつ、ミステリーの女性主人公と一杯のお酒(ノンアルコールも含む)の〝いい関係〟について語っていただいた。

――この連載はミステリーに出てくる女性主人公と、彼女たちが愛するお酒や飲み物との関係性から作品をひもとくシリーズですが、料理研究家である貝谷さんはそれ以前にも『ミステリーからひと皿 あの場面の味が作れます』『料理で読むミステリー』といった本も出されています。そもそものミステリーとの出合いはどういうものだったのでしょう。

貝谷
最初はやはり小学校の図書室にあった子供向けのルパンやホームズを読んだことからです。当時、給食の前の時間は給食係でない子供は本を読んでいいことになっていて、夢中で読んでいて、はっと気がついたらもうみんな食べ始めていたのを覚えています(笑)。
 その後は松本清張や仁木悦子、阿刀田 高などなど日本のミステリーを読みあさり、アガサ・クリスティにも入り込みました。  中高生のころから、その後大学生、社会人になっても、当初は「食」の仕事ではなかったので、ミステリー読書は趣味のひとつでした。サラ・パレツキーのヴィク・シリーズやスー・グラフトンのキンジー・ミルホーンシリーズなど、いわゆる〝女探偵もの〟も出始めのころから楽しんでましたが、そのころは特に食べ物を気にして読むということではなかったですね。

――当時は、ミステリーと「食」を関連付けようという意識はなかったのですね。

貝谷
なかったですね。ただ、もともと食いしん坊ですし(笑)、特に「食」の仕事を始めてからは、ミステリーを読んでいると自然と、なにを食べた、飲んだ、作ったという場面に目がいくようになったんです。するとそこから世界が広がるというか、小説の世界への想像力を働かせやすくなった。

――食べ物、飲み物に注目しながらミステリーを読むようになって、それを雑誌連載なり本で書いてみようと思ったきっかけはなんでしょう。

貝谷
ミステリーはいろいろな方向から読めるものだと思いますが、食のシーンを見ると主人公がよく分かることが多いんです。こんな性格だから、この料理を食べたのか、こんな事件があったから、これを作ってもらったのか、とか。
 特に海外ミステリーでは舞台になっている場所を自分がよく知っていることはあまりないので、そういう意味では縁のない世界ですが、食べ物や飲み物は身近なものなので、そこから想像力を働かせやすくなると思ったんです。〝料理の窓〟や〝飲み物の窓〟からミステリーを覗いてみたら面白いのではと思ったんですね。
 当時、料理の連載をしていた雑誌に、ミステリーから食のシーンを取り上げ、料理を想像再現するという企画を提案して連載となったんです。最終的に『ミステリーからひと皿』にまとめることになりまして、その後同じコンセプトで『料理で読むミステリー』も書き下ろしました。

――〝料理の窓〟ですか。ミステリーのなかにある料理が出てくることで、そこがどういう家なのか、その人物がどういうキャラクターなのかも想像できるわけですね。

貝谷
食べ物や飲み物によって著者は人物を描きやすくなるだろうし、読者も理解しやすくなるのだと思います。
 料理の本では想像再現と言いましたが、書かれている素材があればそのまま同じものを使い、書かれていない素材は、この主人公はいつもヘルシーなものを食べているとか、めんどくさがりやだからとか、キャラクターから想像して作りました。
 今回まとめる『女主人公の50冊 一杯のお酒から読むミステリー』では、お酒は手料理と違い「既製品」ですし、それ以上に細かいシチュエーションは再現できないですが、そのときどんな気持ちでそのお酒を飲んだのかが、作品の世界、主人公の世界に入っていくきっかけになると思います。

――お酒は人間の感情がより出やすいかもしれませんね。おめでたいときは乾杯にふさわしいお酒を、頭にくることがあったら強い酒を呷るとか。この連載を読んでいまして、お酒は選択が簡単な分、そのときの感情がストレートに表れる気がしました。

貝谷
一冊のなかで、あるいはシリーズものならそれを通して、主人公が何度もお酒を飲むことも多いので、このお酒がいいのか、あっちの場面がいいのかと、お酒と場面を選ぶのにすごく悩んだことが多いです。そのときどきの主人公の心を表しているお酒を選ぶようにしましたが、料理のときと違う面白さがありましたね。

――かつてロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズやシャーロック・ホームズなど、単独のシリーズに出てくる料理を扱った本はありましたが、単独作品とシリーズをとりまぜて、これだけ広く扱ったものは珍しいと思いますが。

貝谷
そうかもしれませんね。今回取り上げた様々な主人公のなかには、正直あまり好きではないというか、友達にはなれないなと思う人もいれば、とてもシンパシーを感じる人もいます。でも作品として読む分にはどちらのタイプも楽しいし、それぞれの主人公がもつ世界もまるで違うので、彼女たちのキャラクターを浮き彫りにする一杯を探すのを私自身が楽しんでいるから、バリエーションも豊富になったのではないでしょうか。

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